「湯浴み」<地様>〜これは、ある花の記憶です。〜
私がここに来て幾らかの時が流れた時、どうしても気になり、その時の守護聖首座に私の我侭をきいてもらいました。
私はとても贅沢な注文だと思っていたので、それをきいてもらえるとは半分も思っていませんでした。
今が駄目なら、又別の時に、彼が忘れた頃にでもまたお願いすればいい、ぐらいにしか思っていなかったので、簡単に彼が承知したと言った時、ちょっと吃驚しました。
そして、私の我侭は、言葉から紙の上に形として現れ、それに使われる材質や色、必要な小物等を決める楽しい作業へと動き出し・・・・・・少々時間はかかりましたが、ちゃんと形のあるものとなりました。
私は、故郷様式の浴室を造って欲しかったのです。
ここ聖地は、私の故郷とは違い、水が豊かな場所です。
ですから、その日の水の量を考えながら、使わなくてもいいのです。
しかし、今まで貴重なものとして扱っていましたから、いくら頭では気にしなくていいと解っていても、お湯を使う度に罪悪感というのでしょうか、複雑な気持ちになるのでした。
だからといって、身体を清める回数を減らせば、ここは故郷より湿気がある分、汗が身体に残るのです。
それは、不快でもあり、臭いの元にもなると思った私は、勿体無いと思いながらも、お湯を使っていたのです。
これが、知らないうちに随分気になっていたようで、お湯を使う時に溜息を吐くようになっていたようなのです。
私は全く気がつかなかったのですが、お湯を使う度に、彼に溜息を指摘され、それならどうしたら良いものかと考えました。
それで、原因となるモノを――寝室の奥に、お湯をたっぷりと使う浴室があったのですが――其処を私の我侭で変えて頂きました。
私の故郷様式という浴室になると、高貴な方や定着した生活をした住まいの物しかなく、数はとても少ないのですが、調べてみると、その時代その人なりのこだわりが見られ面白いものでした。
そんな少ない資料の中に、昔の王様が作らせたという浴室跡がありました。
黄色い岩の中、その奥に小さな浴槽があり、反対側の入り口近くにも小さな井戸がありました。
浴室の端周囲は浅い溝があり、使用し流れた水もしくはお湯は、その溝を通り外へ排水される仕組みなっているようでした。
それ以外何も写っていないのですが、解釈によると、小さな湯船はお湯を沸かしためて置き、井戸の水で温度を調整したのではないかと、中央が何もなくただ広いのは、そこにタライもしくは簡易の湯船を置き、入浴に使用したのではないかというものでした。 また、主の入浴を手伝う使用人は3人もしくは4人いたのではないかと。
それは何も無くシンプルであるぶん、想像をかきたて、そういう意味でも、とても贅沢な感じがしました。
私には勿体無い気もしたのですが、あれやこれと華美なモノよりも私に丁度良い気がしまして、浴室はこの様式に決定しました。
そして私は、安易にお湯を使用できるように、浴槽と井戸は無く、広くもなく、排水用の溝のある黄色い岩だけの浴室を造る事にしました。
中央に深いタライを置いての昔ながらの湯浴みを想像しました。
そう想うと、懐かしい光景が次から次へと浮かんでくるのです。
簡単な記憶しかないと思っていたのですが、人が、家族が絡んでいる思い出は色褪せないのでしょうか。
で、実際に出来たのは、今のようにクリーム色というかベージュというか、全然黄色くない岩なのです。
それは、後に月日の為せるモノだと知りました。
確かに真新しいモノと長い年月のモノでは、やはり違いますよね。
浴室の壁は、天井から床、壁に至る全て、砂岩を使い、白いような黄色いようなマーブル模様は、砂が広がってるようです。
大きさも、広すぎず狭すぎずと丁度良く。
中央に、湯浴み用のタライを置きました。
それは、彼が選んでくれた物です。昔の王様か貴族が使用していたと思われる、宝石などは付いて いませんでしたが、シンプルなのですが繊細な細工の施されたタライでした。
完成した浴室に、私はとても幸せを感じました。
ここには、色んな思い出が、聖地の豊かな水の様に溢れています。
ですから、この浴室が私にとって一番安らげる場所なのかも、しれませんね。
あぁ・・・、あなたですか。
気がついたらココにあったんですよ。
リュミエールの作品なんです。
正確には、模写なので、彼の作品と言ってしまっていいのか。
ええ、以前にココに何か飾りたいとは話していたのですが、そのままになっていたのです。
ある絵を見つけるまで、すっかり忘れてました。
海の傍の文明の壁画なんです。
その絵を見たときに、壁に咲く花も美しいですね・・・・と言った記憶があります。
永遠に枯れない花は、苦手なのですが、この花は、それがとても似合っているな・・・と思いました。
ええ、そうですね。
彼は、憶えていてくれたんですね。
あなたを見て、辛く感じる事はないですよ。
そうですね・・・寂しく想う事はありますけどね。
あなたを見る度に、思い出しますから、良いような悪いようなですね。
でも、一番好きな花になりました。
ここに来る度に見るわけですから、好きにならないと、ここを使えないですしね。
だから、一番好きな花の絵にもなりました。
私は、この場所に来なくとも、この花を見た時や例え違う場所で湯浴みをする時にでも、彼の事を想い出すのでしょうね。
そうですね、彼は忘れて欲しくないなかったのでしょうね。
ここ以外にも、そんな場所が沢山ありますから。
彼らしいと言えば彼らしく、それを忘れない私も私らしいのかも、しれません。
ずっとここに居てくれる。
――そんなあなたが、私は好きですよ。
==============================おわり。
すみません; どーしても「前緑×地様」が書きたかったんですぅ〜。へへへ。<カティス出てないけど。(Teruzo-)