Bの悲劇


佐野が先にお風呂に入ったのを見届けて、瑞稀は計画を実行に移した。
ひばり様からプレゼントされたブラを、ベストの上ではなくて直に試着する機会を狙っていたのだった。
かわいい下着と無縁の生活を送っているので、つい魔が差したと言うところか。
とりあえずカーテンを引き、入り口の扉をロック。
大きめのスタンドミラーを机に置いて、準備完了。
佐野が出てくるまでに最短で10分。十分余裕がある。

まずパッド無しに挑戦するがあえなく玉砕。
やっぱりというか何というか…でも落ち込んでいる暇はない。
パッドも動員してすべてをあるべきところに落ち着け、試着完了。
鏡をチェックしながら、ふむふむってところ。
さ、じゃあ急いで元通りに着替えよう♪とブラをはずした矢先、あと5分以上は絶対に開かないはずのバスルームの戸が
「給湯おかしいぞ」の声とともにばたんと開いた!

凍りつく二人。

何秒ぐらい経ったのか、解らない。
無言でまたそそくさとバスルームに戻る佐野。
まだ呆然とする瑞稀。

とりあえず服を着ながら瑞稀は
「どうしよう」「全部ばれてしまった」「どうしよう」「謝った方がいいのかな」「何も考えられない」
などと一人でぐるぐるしている。

しばらくして再び出てきた佐野は、
「どうも給湯の調子がおかしいから、管理人さんに聞いてくる」
と、部屋を出ていってしまう。

一人残された瑞稀は
「…どういうこと?あたしが女の子だったことよりもお湯が出ない方が重要だって事?佐野の考えていることがわからない…」
と、頭をかかえる。

もちろん部屋を出た佐野は廊下の片隅、目立たないように座り込んで
「……俺、限界かも……」
などとつぶやきつ、やはり頭を抱えているのだ。
どうしよう。部屋に戻れっこ、無い。

半時間経過。
瑞稀もさすがにイロイロ考える過程で
もしかしてもっとずっと以前から佐野は気が付いていたのかも…
と思い至り、同時に別れ際のジュリアのコトバなども思い出すのだが、いかんせん動揺したままなので考えがまとまらない。

……佐野はいつ帰って来るんでしょうね?
そもそも部屋に帰れるのか、それは佐野にもわからない。


 

ちるだ舎