サプライズ


うちの学園の保健室は、全寮制ということがあるせいか、通常の学校のそれとは少し異なる。
なんといっても少ない人数に二つも保健室があることがその現れであろう。

あとは、配置されている者に「養護教諭」に加えて「医師」がいることだ。
特殊な学校の、特殊な職員。そういう位置づけはわりと気に入っている。

通常の学校より多くの「健康管理に関すること」を抱えているので、保健室に来た記録も、いちいち個人の健康管理カードに転記している。
そのうち電子化する予定らしいが、冗談じゃない。
俺は機械は嫌いだっつーの。何のために病院医にならなかったと思ってるんだ。

関係ない前振りが長くなった。

ブロッサムとのクリスマスダンパの翌日。
実は終了日なのだが、それでも部活をやっている奴がいるので、クリスマスイブだというのに俺様も終業時刻は5時だ。
まったく。さっさと実家に帰りゃーいいのにな。
オマケに、おおかた昨夜、ダンパで興奮して眠れなかったんだろう、今日はやたらと怪我人が多い。
全くもう、こーこーせーってのは、無駄に若いよな。

そんなわけで今日の保健室はなかなか繁盛しているのだが、そんな中を縫って、いつもの奴もやってきた。

そうか。昨日のダンパの報告って訳だな。
へえ、賞もらったのか。よかったじゃないか。賞金は?無しかよ。
で、もういっこのほうは?あれは今日これからか?
昨日もう渡したって?で、何やったんだ?まさか「私をプレゼント」とか?
こら、カップ落とすんじゃないぞ。なんだ、違うのか、つまらん。
低周波治療器?何じゃそれ?オマエ、何考えてんだ。はあっ。
もうちょっと風情のあるもの、思いつかなかったのかよ?
佐野もずいぶんがっか…いや、驚いたろうぜ。

で、今日はイブなんだが、何かもらえそうか?おかえし。
え、そういうつもりじゃないって?ふーん。
まあオマエがそれでイイならそれでイイんだろうな。
だいたいどっちにしてもおまえら毎日毎晩一緒なんだしな……
おっと。どうして叩くんだよ。本当の事じゃないか。

そうだ。ここはひとつ、俺様がプレゼントしてやろう。喜べ。
何だその意外そうな顔は。失礼なやつめ。ホレ、これだ。
いや、ホント言うともともと業者が置いていったぶん、包み直しただけなんだがな。
あ、ちょっと待て。今開けるなよ。部屋帰ってゆっくり中身を確認すんだな。
じゃ、気をつけて帰れよ。

あー、嬉しそうに走ってゆくよ。子供だねえ。
あ、しまった。
やっぱりここで開けさせて反応見た方が面白かったのに。ぬかったな。

こういう日は、珍しい奴もやってくる。

よう、佐野、珍しいじゃないか。
怪我か?どれどれ。……うーん、たいしたこと無いぜ。
オマエも寝不足組か?
今日来る怪我人って昨日のダンパで興奮して寝られなかった奴ばっかりだからな。
…そういや、ダンパでなにやら賞もらったんだって?
ベストカップル。…オマエ知らないだろうけれど、それちょっとヤバイぜ。
その賞に選ばれた二人はゴールインするって伝説付きだからな。
男二人でゴールインって言うのも、全然変だけどよ。
……顔、赤いぜ。

えーっと、オマエの健康管理カードは・・・あったあった。
何だ、オマエきょう誕生日かよ。へえ。
今日のこの日にここに来たのも何かの縁、
よし、俺様がひとつ誕生日プレゼントをやろう。
何だその顔は。いや、実は3年に配った残りなんだ。気遣うな。
ホレ、これ。いっとくけど、部屋に帰って開けるんだぜ。
大丈夫、別に爆発なんかはしねえよ。……いや、爆発する奴もいるかもしらんが……と、こっちの話。
じゃ、ま、お大事に。

結局両方にやっちまったな。
つくづく開封の時の反応がチェックできないのが惜しいぜ。
……ま、でも絶対報告に来るよな、あいつだったら。
こういうお楽しみがあるのも、この仕事の醍醐味かもな。



一方。
瑞稀はひと足先に帰って、裕次郎の散歩に出かけ、帰りに佐野と落ち合った。
「あれ、佐野、怪我?」
「いや、大したこと無いんだ」
「それならいいけど・・・そうそう、今日の夕飯ね、ケーキがつくんだって」
「げ」
「あ、じゃ佐野の分おれにくれる?」
「ま、クリスマスプレゼント、だな」
「えへへ」
などと仲良く部屋に帰ってくる。
が、平和な時間はそう長くは続かないのだった。

佐野は上着を脱ぐとき、ふと思い出して「そういえば今日梅田になんか貰ったぞ。」
とカバンを探る。
瑞稀も、「あ、おれもそれ貰った!」とくだんのパッケージを取り出す。
「何だろうね?部屋で開けろって言ってたけど」
「配った残りとか言ったぞ」
「業者がどうのこうのって」
「絆創膏か、それに綿棒がついた救急セットってところかな」
などと詮索しているうちに、中身が出てくる。

一目見て内容物を察した佐野は固まっている。
瑞稀はまだ気がつかずに、「あれ?なんだろこれ?」と佐野の方を見るが、瑞稀と包みを交互に見て呆然としているばかりで、返事はない。
やがてさすがの瑞稀も、パッケージを裏返して説明を読み始めて間もなくその正体を知り、やはり固まるのだった。

二人にとってはとてつもなく長く感じた沈黙の数十秒のあと、
「と、とりあえずしまっておくか」
「そ、そうだね。……あ、こんな時間」
「飯食いに行くか」
「うん」とその場は何とか収まったのだが……

結局その晩はその後も二人はずっとぎくしゃくしたままだった。
食べられないはずのケーキをぼんやりつつく佐野、本当はそのケーキをもらう約束だということもすっかり忘れてやはり上の空で自分の分のケーキを食べる瑞稀。
ふらふらと部屋に帰り着いてからも同様である。
それが「プレゼント」の中身である「サガミオリジナルの試供品」のせいであるのは言うまでもない。

なお、この二人がその後このプレゼントを実用に役立てたかどうかは、お話しできないので、悪しからず。

(おしまい)


にゃおさんのところの4000ヒットのお祝いに贈ったものです。
あのページの雰囲気には合わないかもとずいぶん迷ったのですが、にゃおさんが好きと言って下さったので。

佐野と瑞稀以外書いたことがなかった私は、私には梅田先生って書けるかな?とふと思ってこのお話を作りました。書いていて楽しかったですが、やはり梅田先生メインのお話など書けそうにないこともよくわかりました。

また、このお話は、各全国紙に載った「サンプルを希望者に送ります」というサガミのどでかい広告に触発された物でもあります。と言うわけで、商品名がメジャーでないかもと思いつつ使用させていただきました。(というわけで、もしかしたら読み終えたあとも中身がわからないって言うお嬢さんもいるかも……大丈夫かな?)また、サンプル一個だったらたとえサンプルにありがちな立派な説明書がついていても小さすぎるので、たばこの箱ぐらいの大きさに、梅田先生が3個ほどまとめてパッケージし直してくれていると思ってくださいね。それぐらいのことはしてくれるお方だと思っています。

個人的に「とりあえずしまっとく」って言うのが気に入ってるんですけれどいかが?

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