眠れない夜
突然夜半をすぎて目が覚める。
夢の中でおまえを襲っていたのは俺ではなかったか?
そうして眠れない夜がまた始まる。
上方1メートルあまりの地点に存在する、おまえ。
闇の中、寝息と体温がかすかに伝わってくる気がする。
そして脈絡無くよみがえる、感触。
甘い息。柔らかい肌。深い、瞳。温かい、身体。
魂に刻みつけられた記憶が突然うかびあがっては
燐光を放ち、俺を誘う。
手を伸ばせばとどくのかもしれない。
でも夢の中のおまえは泣き叫んでいた。
あの夏の日のように。
幾夜こんな夜を過ごしただろう?
あと幾夜こんな夜を過ごすのだろう?
眠れない夜、眠れない俺は、
おまえの寝息を静かに数えている。
たぶんこれは「Homestay」とともに初めて「花君」で書いたものです。
にゃおさんのHPに載せていただきました。
私は花君の中でも3から5巻のエピソードが好きです。
当初3巻の終わりの時点で佐野は自分の感情に気がついたのかと思っていたのですがそれには今しばらくの時が必要だったようですね。
そう思うと、3巻のとくに蒔田事件は、佐野に自分の感情を気づかせるためではなく他の重要な意味があるのでは……そう、泣き叫ぶ瑞稀の姿をすぐそばで目撃することが、佐野の暴走をくい止めているのではないかと思い至ったのでした。
あまりにももどかしい二人の姿に、私自身も創作の中ではいろいろな働きかけをしていますが、実際この詩の中のようなスタンスが一番佐野らしいと思うのです。