必殺技ぱーと2


夕刻。瑞稀はまたしても止まらないしゃっくりに悩まされていた。

ひっく。ひっく。ひっく。

もちろん、彼女なりにあらゆる技を駆使したのだが、テキは手強く、すべて空振りに終わったのだ。

「また誰かが驚かせてくれたらイイんだろうけれど……
 『驚かせて』って頼むのもヘンだし……」
結局止まらないままなのだった。

そんな中、205号室のドアが開く。
「おかえり!佐…ひっく!…野」
「ああ。」

佐野は今回は瑞稀のしゃっくりについては何も触れず、ちらりと瑞稀の方を一瞥したのみで、上着を脱ぐとそのままベッドに倒れ込んでしまった。

「…佐野?ひっく。どうしたの、大、ひっく!丈夫?」
「ああ。」佐野は横になったまま曖昧に返事する。

止まらないしゃっくりも気になるけれど、佐野の様子ももっと気になる。
が、「なんか相当疲れているみたい…」と思った瑞稀は黙って宿題の続きをすることにした。

部屋の中は静かで、時折瑞稀のしゃっくりだけが響くのだった。
ひっく。……ひっく。……ひっく。

「佐野、寝ちゃったのかな?今日はどうしたんだろ?」
宿題も一段落ついた瑞稀が、さっきから気になる佐野の様子を見にゆくと、佐野はベッドの奥の方に横たわっている。
「何かあったのかな……」と佐野の顔をそうっと覗き込む。

と。

突然ベッドの中から腕が伸びて、瑞稀の腕を思い切り引っ張った。
「わ!?!?」
瑞稀には何が起こったのかとっさには把握できない。
気がつくと目の前には佐野の顔。そして自分も佐野のベッドの中。わわわ。ど、どうなってるの、この状況って……とたちまち瑞稀の顔は赤くなる。

と、よく眠っているとばかり思っていた、かの人は、目を開けると、いたずらっぽい笑みを浮かべて一言。
「止まったな。」
確かにしゃっくりはすっかり止まっていたのだった。

「……うん。ありがと。」
そして赤面とうろたえを隠すように、付け加えてみる。
「いろんなワザ、あるんだねえ。」
「当然。さ、飯食いに行こうぜ。」
「うん。」
「オマエ、やっぱり横隔膜のトレーニングした方がイイんじゃないか?」
「……」

もそもそとベッドから這い出しながらも、瑞稀のドキドキはまだ止まらなかった。
そして、こんなにドキドキしたままご飯食べたら、心臓と胃の間にあるって言うオウカクマクの位置もよくわかるだろうか、なんてちょっと思ったのだった。

(おしまい)


にゃおさんのお誕生日のお祝いにプレゼントしたものです。

「必殺技」が自分でもちょっと気に入っていたので、調子に乗ってその続きを書いてみたのでした。
「仕掛ける佐野」がけっこう好評だったので、気をよくしています。

瑞稀を瑞稀らしく、佐野を佐野らしく書く!というのが一応創作上の日々の(?)目標なのですが、
ここでの二人はもしかしたらちょっと違うかも。でもけっこうお気に入りなのでした。

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