必殺技


その午後、瑞稀は止まらないしゃっくりに悩まされていた。
ひっく。ひっく。
「あーもう気になる〜!!」
ひっく。ひっく。
「意識しだすとよけいに止まらないみたい……」
ひっく。

そんな中、205号室の扉が開く。
「あ、佐野、おかえ…ひっく!!…りっ」
「…なんだオマエ、しゃっくりしてんのか」
「うん。なんだか、ひっく!止まらなくって、ひっく!」
ひっく。ひっく。

「……にぎやかな奴だなあ……」
「だって、どうしてもとまら、ひっく!ないんだもん」
「しゃっくりなんて、横隔膜にちょっと力入れたらすぐ止まるだろ。」
「お、横隔膜??」
「このへん。心臓と胃の間。」
「こ、こんな、ひっく!ところ、どうやって力入れ、ひっく!るんだよぉ。」
「え、できないのか?」
「……ひっく。できない。」

「(ため息)。…仕方ねえな。じゃ、水飲んでみたか?」
「え、どうすんの?ひっく!」
「普通に水飲むだけ。コップに水くんで、しゃっくりのリズムに合わせて一気に飲む。」
「…ひっく!…やってみる……ひっく。」

と、瑞稀は立ち上がってコップに水をくみにゆく。
「…水、これぐらいでイイ?ひっく!」
「ああ。」
んーーー。
「止まったか?」
「あ、なんか止まったみたい。佐野ありが、ひっく!……ダメだあ。」
「だめか…」

ひっく。ひっく。ひっく。

「あのね……ひっく。息を止めて、唾を3回ひっく!…飲み込むっていうのも やってみた、ひっく、んだ。でもダメだった。」 
瑞稀はすっかりしょげている。

「仕方ねえな…必殺技使うか。」
「ひっ、ひっく!…さつわざ?」
佐野はなんだか心なしか楽しそうだ。
「そうだ。…またさっきぐらい水くんで。」
「あ、水ね。ひっく。……くんだ。」
「その水を、今度はだなあ。」
「どーすんの?」
「……や、やっぱやめとこう。」
いたずらっぽい表情を浮かべている、ような気がする。

「えー!!ひっく。教えてよっ。」
するとおもむろに、
「……俺がオマエに口移しで飲ませるんだよ。」
「!!!???く、くちうつし???」
「そう。コップ貸してみ。」
「!!!」
あまりの唐突な展開にもちろん瑞稀は真っ赤。
コップを持つ手もふるえている。
と、突然笑い出す佐野。

「はははは。なんてカオしてんだよ。ほれ、もう止まったろ?」
「へ?……あ、本当だ、止まってる。
 わーすごい!!……本当に、必殺技なんだねえ。佐野ありがとう。」
「しゃっくりは、驚かすのが一番手っ取り早いからな。」

もちろん、その後、二人とも
それぞれこっそりと今日の出来事を反芻しつつ
「なんだかちょっと惜しかったかも…」
なんて思っていたのだった。

(おしまい)


にゃおさんのHPの2000ヒットのお祝いにプレゼントしたものです。
二人の会話による、短いワンシーンを書いてみたいと思っていたのですが、成功してますかね?

しゃっくりの止め方についてヒントを下さったあけちゃん、ありがとう。
横隔膜に力を入れるっていうのは、その昔、しゃっくりに苦しむ私に高校の時の友人が教えてくれた方法なのですが、私にはできません。

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