ひらひら


ふわふわと身体ごと浮き上がるような気分。
いや、うまく説明できないけれど、ヒラヒラとそのあたりを飛びまわっているような感覚。
現実感をなくしている、のかな。あまりにも夢のようで。

大好きで、ずっと一緒にいたいと思っている大切な人がいて
その人もまた自分のことを同じように思っていてくれる。
そんな夢のようなことが現実に起こってしまったと判明してまだ半時間も経っていなかった。

大好きなその人はさっき頬をちょっと染めてバスルームに入っていった。
残された瑞稀はそのまま佐野のベッドに腰掛けている。
この感じをなんというのか解らないけれど、
ひらひらした、なんか華やいだキモチで、自然に笑みがこぼれる。
そしてそのまま身体を伸ばして、仰向けに横たわる。

佐野のベッドは、やっぱり佐野のにおいがして。
うまく言えないけれど、なんか安心するカンジ。
その一方ではうーんとドキドキしているのだけれど。
そっと指で自分の唇に触れてみる。さっきのキスがよみがえる。
「きゃー」と心の中で思いっきり叫んで、枕に顔を埋める。
事故なんかじゃない、本物のキス。佐野がくれたキス。
今朝起きたときはただのルームメイトだったのに、
いまは出来立てのほやほやの恋人同士なのかも・・と考えて
「恋人」のフレーズに自分で照れまくって、布団をばしばしたたく。
……あたし、こんなにシアワセでいいのかな?
うん、ホントにシアワセ。こわいぐらい。
何も考えられなくて、ただかすかな佐野のにおいに包まれていることが嬉しくて、
そして至福のまま瑞稀はまどろみの中に入っていった。


「おい、寝ちまったのか?」
バスルームから出てきた佐野は自分のベッドに入り込んで眠っている瑞稀を発見して声をかけた。反応はない。
「……ったく。信じらんねー奴。…」
その柔らかな頬をそっと押してみても、やはり彼女は眠ったままだった。
「これって男のベッドに入って待ってるって事になるって気がつかないのかよ。
 あんまり人の理性試さねーで欲しいよなあ。
 …まあこういうとこもコミで惚れちまったんだけどな。」
指でその柔らかい髪を梳きながら、つい先刻ここで起こった事件を――それは全く事件といってよかった――反芻する。
見上げる瞳。ふるえる唇。甘い息。細い肩。

いつか指は眠る瑞稀の細い顎をとらえていたが、しばしの逡巡のあともう一度髪に戻る。
ここでもう一度口づけてしまったら、もう自分を止められないと危惧して。

そして丁寧に瑞稀に布団をかけ直すと、予備の毛布を床に敷き、自分はそちらに横たわる。
「明日の朝起きたらどんな反応してくれるやら」と苦笑しながら。

そして、夢の中に出てきた愛しい人は、
羽根もないのに佐野のそばをひらひらと浮かんでいて、
またそれに妙に納得している自分がいるのだった。


あけくまさんのHP、「Cherry Lolly Jar」の開設のお祝いにプレゼントしたものです。

甘いのが書きたくても、私としてはこのへんが限界です。
本当はこの直前の状況を書いた「The Last Straw」と言う作品があったのですが、
全然気に入らないので(読めば読むほどムカツクとゆーか…)封印してあります。

まあ、でも私なりの佐野像・瑞稀像がよく出ているのではないかな?

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