カケラ・f
夜明けの頃にぽつぽつ降る雨は
いつもあいつの夢を見せる。
あいつはぱたぱたと足早に目の前を通り過ぎるから、
目で追い、駆け出し、声をかけ、ついには叫ぶ。
行くなと。
俺のそばにいろと。
だが、その声は滅多に届かない。
視界から消えゆくあいつを見つめて立ちつくす。
ごくまれに、立ち止まらせるのに成功した時も、
抱き寄せようとしたとたんにその姿はかき消える。
――夢か。
確認するようにつぶやいて、ため息をつく。
そして、ぼんやりした頭のまま、あいつを絶対この手に取り戻すと誓うのだ。
2009年6月にちるだ舎の拍手お礼だったもの。