シフォン


扉に鍵をかける。

不安だから?もちろん、それも、きっとある。
でもそれは、儀式。ひとつの結界。

今日は佐野がいない。遠征なのだ。
「大会、本当は見に行きたかったなあ。」声に出してつぶやく。

こういう風に部屋の中で一人きりで一晩を過ごすのはとても珍しいこと。
この機に、どうしてもしておきたいことがある。
って言うより、しておかなくてはならない気がする。

枕元の引き出しから取り出したのは、伊緒さんからのプレゼント。
ペールピンクのシフォンジョーゼットのキャミソール。
たくさんのギャザーとフリルは、あたしの回りに本来あってはいけないもの。
…そう考えて、封印したもの。

でも今夜は一晩だけ、あたしのなかの女の子とつきあう。

シフォンジョーゼットの肌ざわり。
なんだか頼りない着心地。
細いリボンとレース。
……しばらく下着姿で鏡の前に立ちつくしてしまう。

あのひとのことが大好きだから、
あのひとと暮らせることは本当に嬉しい。
そして今の関係も、手放したくない。
でも。
シフォンジョーゼットの感触が、
あたしがそれと引き替えに失ったものの大きさを
本能レベルで伝えてくる。

女の子の生活。
女の子の時間。

今夜はこのままの姿ですごそう。
そして、いつも隅っこに追いやられている
私の中の小さな女の子のために、
少し泣こう。

あしたからも明るいあたしでいるために。
あしたからもあの人のことが好きでいられるように。


扉絵に時々瑞稀のランジェリー姿が載りますよね。
かわいい下着って何より「自分のためのもの」だと思うので、
女の子の自分を一応表面的には封印しているはずの瑞稀ってけっこうツライだろうにと
あの手の絵を見るとそっちが先に気になるのでした。

……ちょっと暗かったかな。

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