念入りな秘密


陽だまり邸には地下もある。
半分は食料庫になっているが、その反対側にも階段があるというので探検してみた。今日は依頼がないので、探検メンバーはオーブハンター全員だ。
階段を下りきった場所の三方の壁には、それぞれドアがある。正面のドアから調べようにも、鍵がかかっていた。
「鍵なら私が持っています。ただ、たくさんあって、どれがどれなのかわからないのが難点ですが」とニクスさんがすまなそうに鍵束を掲げる。
「この鍵穴から見て、たぶんこれだね」とジェイドさんがその中の一つを取り、鍵穴にさすと、果たして見事に鍵が回った。
「ジェイド、お前そんな特技もあったのか」とレインが感嘆した。

扉を開くとその部屋の真ん中にあったのは、撞球台。

「ああ、ここは密談部屋ですね」
「そのようだな」
納得しあっているニクスさんとヒュウガさんに私は素朴な疑問をぶつけた。
「え?娯楽室ではないんですか?」
「そう見えるようにしてあるからな」
少なくともヒュウガさんからは詳しい解説は期待できないようだ。
ニクスさんが助け船を出してくれた。
「撞球台のある部屋は、紳士の社交場。主人の許可した人しか入れないので密談にはもってこいなのです」
「うちじゅうみんなの娯楽部屋ってわけではないと、そういうことですか?」
「ええ。少なくとも子ども達は入れてもらえなかったはずですよ」
こんなに楽しそうな部屋なのに、子ども達がちょっとかわいそうかも。あ、でも。今気がついたけれど、この部屋、すごくたばこのにおいが染みついている。確かに子ども向きじゃない。

「おやあの隅の正方形のテーブルは」
「カードテーブル?」
「これはこの部屋の物入れをよく調べなくてはいけませんね。カードがたくさん出てきそうです」
カードテーブルは3台もあった。一体どんな生活がここで営まれていたのか、私には見当もつかない。

「しかし、カードをしながら密談とは、難易度が高そうだな」
「慣れの問題ですよ、レイン君」
「カードはあくまで脇役。勝とうとムキになると交渉に失敗する。ただでさえ勝負事には性格が出やすい、ということだ」
ヒュウガさんの言葉はレインのご機嫌を損じたらしい。
「オレは単に純粋にゲームを楽しみたいだけさ」
レインはぼそりと言うと部屋の反対の隅の方に歩いて行ってしまった。

「おや、あのダーツボードのある壁は離れてよく見ると少し変ですね」ニクスさんが首をかしげた。
「あの壁は可動だね。見た感じだけれど」
ちょっと待って、とジェイドさんは見る間に隠し扉を開けてしまった。
「ジェイドはオーブハンターの仕事がなくなったらトレジャーハンターになるといいかもしれません」
感に堪えない、といった様子でニクスさんが言う。

扉の向こうは小部屋があり、中央にやはり四角いテーブル。天面には羅紗が貼ってある。
「こ、これは…」ヒュウガさんが目をみはって絶句する。
「アレですね。道具は、ああ、あのケースですか」
部屋の隅には四角い小さなトランクのようなもの。

「ここは麻雀室か!」
「おや、レイン君もたしなむのですか」
「大学時代覚えさせられたんだ」
「大学時代って、レインがカルディナにいたのって10歳ぐらいじゃなかったの?」
「ああ、そんなものだな」
…足りないメンツを揃えるためには手段を選ばないってことかしら??

「僕も旅先で覚えたから、できるよ。だからメンツは揃っているからいつでも遊べるね」とにこにこするジェイドさん。

「…実は私もできます。点を数えるのは苦手だけれど」
黙っていようかと迷ったあげく、私が本当のことを打ち明けると、皆固まってしまった。

ニクスさんは引きつり笑いを浮かべながら、今日の感想をまとめにかかる。
「おや、メルローズではそんな教養も教えていましたか。なかなか奥深い学校です。そしてこの陽だまり邸も実に奥深かったのですね。いろいろな意味で」
「密談部屋が見せかけで、やはり娯楽がメインだったとは、面白いというかなんというか」
「そこまで周到に隠すような恥ずかしい趣味ではないと俺は認識していたんだけどな」
「たいへんきまじめな奥方ないしご老人がいた、のではないだろうか」
「なにぶん居抜きで買ったもので、そのあたりのことは全然わからないのがもどかしいですね」
居抜き云々はあまり関係ないのでは、とアンジェリークは思ったのだが、特に口をはさむことはしなかった。

そしてもちろん、その日のうちに麻雀卓と牌はサルーンの片隅に移動されたのだった。


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