ふたりでお茶を ｂｙ masanoriko様
トクントクン
早くなる鼓動
少し上がる体温
上気する頬
瞳の合う一瞬が長く感じられる昼下がり
「アンジェリーク。」
育成も終わり、特別寮へと帰途に着く。
大好きな滝の側を通って・・・。
誰もいないと思っていた場所から、自分を呼ぶ声に振り返る。
奥の森から手招きをするのは水の守護聖リュミエール。
呼ばれるまま、入っていくと、一面の花畑。
そこにテーブルを持ち込んでお茶をする守護聖２人。
「こんにちは、リュミエール様、ルヴァ様。お茶会をなさってらしたんですか？」
小さく深呼吸。
少し早くなった鼓動を落ち着かせるために。
「よろしかったらこちらへいらっしゃいませんか？」
リュミエールの言葉にルヴァが椅子を引いてくれる。
頷いて、二人の間に腰掛ける。
花を揺らす風が、頬に当たる。
少し上気していることを風は教えてくれる。
小さく深呼吸。
リュミエールがハーブティを目の前に置く。
口に運ぶとふわっと、心地よい香りに包まれる。
「・・・きれいなところですね。こんな場所があるとは知りませんでした。」
ルヴァがお茶菓子を目の前に置く。
ディア様お手製のケーキ。
カップを置いて、うながされるまま一切れ口に運ぶ。
それを見計らって、ルヴァが口を開いた。
「ここは、本当は女王候補の立ち入り禁止区域なのですよ。ですから、みんなには内緒にして置いてくださいね。」
そう言うとリュミエールと二人、失敗談などを話してくれる。
気持ちが解れていく。
楽しい時間。
「ああ、そういえば、昨日あなたが言っていた本、見つかりましたよ。さっきお渡ししようと思っていたのに、すっかり忘れてしまって・・・。」
そう言うと本を一冊机の上に取り出した。
ポケットから出てきた本は少し温かくて、どきりとする。
「今日も、ルヴァ様の執務室へ行かれたのですか？エリューシオンは地のサクリアを大分欲しているのですね。育成に熱心なのはいいことです。」
二杯目を注いでくれながらの、リュミエールの言葉に激しく動揺する。
リュミエールは表情も変えずに楽しそうに話している。
気付かれてはいない。
とりあえず何か飲もう。
カップを掴もうとした手が宙を切る。
カッシャーン
大きな音と共に飛び散るかけらと液体。
「あっ。」
避ける間もない一瞬の出来事。
「アンジェリーク、大丈夫ですか？」
先に駆け寄ってきたのはルヴァだった。
足にハーブティがかかったらしく、赤くなっている。
かけらも飛び散り、切り傷もある。
さっとアンジェリークを抱き上げ、滝のほうに歩き出す。
「そこで冷やしてきます。」
「ああ、リュミエール様、カップ・・・ルヴァ様、大丈夫ですから・・・。」
自分の姿を想像して、真っ赤になりながら、ルヴァに掴まる。
ルヴァ様がこんなに力持ちだとは思わなかった・・。
「痛みますか？」
ハンカチを流れに浸し、アンジェリークの足に当てる。
「すみません、ハンカチならここに・・・。」
「大丈夫です、これもきちんと洗ってありますから。ああ、赤くなっていますね。少しやけどをしましたか・・・。」
痛みよりも、早くなる鼓動が痛い。
心臓の音がルヴァに聞こえそうで・・・。
やけどで熱いのか、彼に手当てされているのが熱いのか、わからない・・・。
「顔が赤いですね。熱があるんでしょうか？」
近づく瞳。
重なり合う額と額。
長いまつげ、ブルーグレイの瞳。
一気に熱が上がる。
「少し熱いですね。リュミエールに言って来ましょう。ちょっと待っていてください。」
彼がその場を離れると、ふっと下がる体温。
痛み出す足。
もしかして・・・。
毎日足が自然と向かう、彼の執務室。
彼といると、落ち着ける気がした。
最年長の守護聖。
そのことの安心感だろうと思っていたけれど・・・。
鼓動と上がっていく体温を説明することができる言葉が、頭の中を駆け巡る。
彼がそこにいるだけで、濃くなっていく空気。
「さあ、どうぞ。」
背中を向けて、彼は座り込んだ。
後ろから、リュミエールが支えて、ルヴァの背中にアンジェリークを乗せた。
「大丈夫ですから。」
何度も言ったが聞き届けられなかった。
ルヴァに背負われて帰ることに・・・。
「あ、リュミエール様、大切なカップ・・・。割ってしまって申しわけありませんでした。」
美しいティーカップだった。
リュミエール様お気に入りの・・・。
「いいんですよ、こちらこそ、急に誘って、その上怪我をさせてしまって、申しわけありませんでした。ゆっくり休んでくださいね。では、ルヴァ様、お願い致します。」
優しい笑顔と言葉で見送られる。
すみませんと謝りながら、広い背中に高鳴る鼓動。
暮れがかってきた道筋には幸いにも誰も歩いていなくて。
見つからなくてうれしいような、二人きりで恥ずかしいような。
不思議な気分になる。
「・・・ルヴァ様、重くありませんか？」
黙々と歩くルヴァに声をかける。
沈黙は痛く、切ない。
「大丈夫です。あなたの一人くらいなら、どうってことはありませんよ。」
事も無げにルヴァが言う。
息も切れずに黙々と寮への道を歩く。
ずっとこのまま行けたらいいのに・・・。
何を話していいかもわからないぎこちない空気の中、でもなぜか安心感があって、この安心感が彼自身の持つ独特の雰囲気なんだと改めて思ったり・・・。
この安心感に自分は惹かれたのだと改めて痛感する。
寮までの何分間かに自分の気持ちを整理できて、ますます彼に惹かれていく自分。
恋とはきっかけだと誰かが言った。
「アンジェリーク。」
不意に呼ばれて彼の顔を覗き込む。
「今週の日の曜日、よかったら一緒に出かけませんか？・・・その、リュミエールのカップを探しに行こうかと・・・あなたも大変に気にしていたようですし・・・。」
耳まで赤くなりながらのルヴァの言葉に、デートの誘いであることに気づく。
「はい。」
うれしくて夢中で返事をした。
気がつけば寮の前、そっと下ろしてもらう。
「ありがとうございました。」
恥ずかしさの余りルヴァの顔を見ることが出来ない。
ルヴァがそっと顔を近づけて耳打ちする。
「また、来てくださいね。お茶ぐらいならお出しできますから・・・その・・・日の曜日の予定を立てましょう・・・それから・・・今度は二人で、お茶をしたいですね、花を見ながら・・・」
寮の門前で、しばらく佇む二人。
真っ赤になりながら・・・。
二人でお茶を・・・。
甘くて幸せなルヴァアン創作が沢山あって、しかもどんどん増殖中の素晴らしいサイト「pine base」で、１０００番を踏んで頂いた作品です。
リクエストは、「恋人未満の微妙なふたり。ゲスト水様。水様はできれば性悪でなく天然ボケ系で」。と、まあ、よくもこれだけ好き放題並べたなあと言うものだったのですが、リクエストした次の日（！！！）、この作品が届いたときはその仕事の速さと出来映えのすばらしさに本当に驚愕というか感動というか、あふれほとばしる文才がとってもうらやましかったりしたのでした。
さらにさらにその二日後、ルヴァサイドのお話まで頂いてしまって。ううう、私って幸せ者です〜〜！！