時を駆ける女王候補
by YUKI
KITAMURAさま
1
「ルヴァさま☆」
語尾に変なアクセントをつけて、アンジェリークがルヴァの執務室を訪れた。
「おや。アンジェリーク。こんにちは。今日は育成ですか」
「ううん。今日はルヴァさまにお願いがあってえ…」
アンジェリークは手を後ろにまわし、猫なで声を出しながら笑顔をルヴァに近付けた。
「ど、どうしたんですか?いったい…」
アンジェリークが、一歩前進する度に、ルヴァは一歩後退する。
「ふふふ」
ルヴァは顔を引きつらせながら、
「だ、だいたい、どうしてこんなところにいらっしゃるんですか。今日は、あなた、ジュリアスの誕生日でしょう」
と、言った。
「ジュリアスの誕生日」と、聞いた途端、アンジェリークは顔を真っ赤にし、
「そうなんですよ。そう!だからお願いに来たんですっ」
と、大きな声を出した。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。アンジェリーク。ジュリアスの誕生日なら、
わたしのところじゃなくてジュリアスのところに行ったほうがいいんじゃ……」
「もう行きました!」
「じ、じゃあ…」
「聞いてください。ルヴァさま!!」
アンジェリークは握りこぶしを振り回しながらさらにルヴァに近付く。つられて退くルヴァ。
「今日はジュリアスさまのお誕生日だから、わたし、一ヶ月も前から準備してたんですよ」
「はー」
「何たってジュリアスさまのお誕生日は八月なんでセーターやマフラーなんか差し上げることはできないし、この飛空都市には全然可愛いお店なんてないし、ジュリアスさまってレジャーなんかも興味ないし、食生活もわたしとは合わないし。もおーメチャメチャ考えて考えて育成どころじゃなかったんです!」
「いや。それは。…ちょっと」
「だって、一年に一回しかないんですよ。お誕生日は!これを逃したら、ゲット、じゃなくて次のお誕生日はないかもしれないじゃないですか。ゼッタイ手作りのグッとイケてるアイテムを選ばなくちゃいけないんです!!」
「手作りなら、セーターでもいいんじゃないんですか」
「フンイキってものがあるでしょ」
「はー」
「そ・れ・で!わたし、すっごく一所懸命考えて、まあ、ありきたりだけど、やっぱりケーキにしようと思ったんです」
「はーはー。いいじゃないですか」
「でしょでしょ!まあ夏だけど、ここはそんなに暑くないし、あんま甘くないのにすればいいし…ってことでケーキを焼いて、さっきジュリアスさまのお部屋に行ったんです」
「は……」
「そうしたら、運よく向こうからジュリアスさまが歩いてくるじゃないですか。あー。何て日ごろの行いがいいのかしらって神サマ、もとい、女王陛下に感謝して、ジュリアスさまに向かって一歩踏み出したんです」
アンジェリークは、どんどん興奮して真っ赤な顔でどんどん早口になる。もともとの速度がゆっくりなルヴァは話についていくのが精一杯で、相槌もろくに打てない。
「ジュリアスさま、って可愛く挨拶して、もおーラブラブって予定だったのに。…わたしったらわたしったら」
アンジェリークは顔を覆う。
「ジュリアスさまの目の前で、思いっきりコケちゃったんです!!ああっ。もうっ!何てドジにもホドがあるわ!」
「----------」
ルヴァは、まだいまいち意味がよくわからず、ただただ吃驚してアンジェリークを見ていた。
アンジェリークはわんわん盛大に泣いている。
「あ…、あのー」
ルヴァはそうっと手を伸ばし、アンジェリークの肩に触れようとした。
”これは…、ひょっとして……。チャンスってものじゃ”
ルヴァは頭のなかで、「ルヴァさま」とか言って抱きついてきた彼女を優しく慰める(もちろんしっかり抱きしめて)自分を想像した。
あと2ミリ。
ルヴァは、ごくりとなまつばを飲み込んだ。
「で!そこでぇ、ルヴァさま」
「え!?いえ!な、なな何でもないですよ」
突然、顔を上げたアンジェリークに、ルヴァは胸から心臓が飛び出そうなほどドキリとし、慌てて否定した。
「え?」
「え?」
「どうしたんですか?」
「いえ、べ別に、あはは…」
ルヴァが心のなかで溜息を吐いたことは彼だけの秘密である。
「ルヴァさま、ゼフェルさまとタイムマシンを作ったそうですね」
「え?」
「お願いっ。アンジェ一生のお願い。タイムマシンを貸してくれたら、アンジェ何でもします」
「な、何でも…って?」
ルヴァは赤くなった。
「一ヶ月、ずうっとルヴァさまのサクリアをエリューシオンに送り続けますっ」
「いや。そういうのは…、ちょ…っと」
「ねえ。いいでしょ。ルヴァさま」
アンジェリークは、胸の前で手を組み微笑む。
彼女の微笑みは魔性だ。ジュリアスも、ゼフェルもクラヴィスも、そして、自分もまた、その魔性にとりつかれてしまっている。だから、仮令それがジュリアスのためであったとしても、彼女の微笑みには逆らえない。
「わかりました。で、どうするつもりなんですか」
「もちろんっ。過去に戻って、わたしが身を挺して守ったケーキをプレゼントして来るんですっ」
「いや。それは駄目ですよ。そんなことしたらタイムパラドックスになってしまいます」
「タイムパラドックスって?」
「いいですか。連続した時間軸が途切れてしまえば、時間にひずみが生じてしまうのです。その結果は…、ちょ、ちょっとアンジェリーク?」
見ると、彼女はタイムマシンに乗り込んでいる。
「何を為さっているんですか。話は未だ途中ですよ」
「だってルヴァさま、話長いんだもん」
「とにかく。過去のジュリアスに未来のあなたが出会ってしまったら、歴史が変わってしまうかもしれないんですよ。どうしても過去に行くって仰るのなら、あなたが転ぶ前に行って、それを止めるしかありません」
「ええっ!!じゃあ、現実の、このわたしはどうなっちゃうの?」
「それは。ちょっと…」
”うーん…。本当はそれだって充分タイムパラドックスに陥るのですが……。まあ、でも、この「現在」を変えるわけにはいきませんからねえ。…別に、…意地悪で言ってるのではないのですよ”
心のなかは言い訳がましい。
「えぇー!…あんま意味ないなあ」
ぶつぶつ言いながら、彼女は操作を開始した。
2
「さて」
アンジェリークは、タイムマシンを降りた。
”2時45分にセットしたからね。バッチリ!”
アンジェリークはいそいそとジュリアスの執務室に向かう。
”うーん…。ルヴァさまにはああ言ったものの、やっぱ、自分がらぶらぶになれないってのは、なんかいやだなあ。…ううん?ここで過去のアンジェが無事プレゼントできて、わたしが「現在」に戻れば……、既にらぶらぶの世界?かも。……ううん。でも、せっかくケーキ焼いたのになあ…。渡したいなあ”
そんなことを考えながら、歩いていると……いるいる。プレゼントを持って廊下で身構えている「自分」。
”あ。いたいた”
アンジェリークはその「自分」に声をかけようとした。が、そのとき、彼女は前方から歩いて来るジュリアスを発見した。
”やばっ!”
いくらアンジェリークとはいえ、やはりこの瞬間に「自分」の後ろから自分が顔を出すのは可笑しいと思った。
”あーんっ!!アンジェ、ピーンチ!”
しかし、直後には、
”ラッキー!何てアンジェったらツイてるの?うふふ”
と、思い直した。
ポケットのなかに消しゴムが入ってるのを発見したのだ。これで、前にいる過去の「自分」にこれから起きる悲惨な出来事を知らせられるかもしれない。
「えいっ」
彼女は消しゴムを投げた。
「自分」の背中に当てるつもりだったが、狙いは外れ消しゴムは「自分」の足下に落ちた。そして、「自分」は、
「ジュリアスさま」
と、彼の名を呼びながら前方にダッシュした。そして……ビタッッ!!
「ああ」
「自分」はジュリアスの目の前で盛大な音をたてて転んだ。おまけに手に持っていたプレゼントを落とすまいとバランスをとろうとして、
「あ。うあぁ」
と、あげたまぬけな声も聞き覚えがある。
永遠とも呼べるような長い沈黙のあと、
「きゃあああっっ」
と、悲鳴をあげた「自分」は一目散に走り去った。
やがて、ジュリアスも呆然と、そしてよろよろと自分の執務室に入っていった。
…アンジェリークは凍りついたように立ちすくんでいたが、やがて、ゆっくりと、後ろを振り向いた。
思った通り、そこには「自分」がいた。未来の「自分」が。
「……あなたね」
沈黙を破り、声をかけた。
「いいえ。今のはあなたよ」
未来の「自分」は不敵に笑う。
再び、沈黙が流れる。
「どうして…邪魔をしたの?」
「じゃあ、どうしてあなたは今彼女の邪魔をしたの」
再び、沈黙のなかで睨み合う。
二人は同時にダッシュした。
それぞれが乗ってきたタイムマシンに向かって。
3
カチッカチッカチッ。
机上に置いた懐中時計が規則正しい音をたてる。
”13時45分…”
ジュリアスは書類から眼を離し、時計を見た。
もともと書類なぞ見ていない。
彼は待っていた。
午後3時になることを。
その時間には彼女が来るのだ。
天使という名をもち、彼に微笑みと動悸と眠れぬ夜と赤面を与えた少女。
”ああ、アンジェリークよ”
彼女は、毎日午後2時50分から3時5分の間にやって来た。そうして15分程話してゆく。
毎日、それだけだった。
だが、その15分間は何と至福のバラ色のときであろうか。
人生とはかくも楽しきものであろうか。
彼女の愛くるしい笑顔。大きい、はねあがるような声。よく動く表情。蜂蜜よりもきらきら輝く唇。
思い出すだけで自然に頬が染まり、微笑みが湧き上がる。
日の曜日には二人で公園を散歩した。あるいは互いの部屋で語らった。
彼女は、何と陽の光が似合うのであろうか。否。どんなにきらきらしい光でも彼女にはかなわない。どうして彼女の口から流れでる言葉はあのように新鮮な感動を呼び起こすのであろうか。
ああ。全くに人生とはかくも楽しきものであったか。
それに----忘れもせぬ三日前の日の曜日。
彼は、初めて彼女を森の湖に誘った。
「うれしいです。ジュリアスさま…」
頬を染めてはにかむ彼女にジュリアスも微笑んだ。
恐らく彼女もこの湖の別名を知っているのだろう。
湖に着くと、彼女は予想通りはしゃいだ。
流れ落ちる滝に手に差し出し、
「キャッ!冷たいっ」
と、歓声をあげる。
その笑顔。上から落ちる飛沫と滝つぼから飛ぶ飛沫がかかり、柔らかな木漏れ日が反射し、ジュリアスは一瞬言葉を失った。何と美しい……
あまりの衝撃に、彼は
「み、水が冷たいのは決まっている。女王候補たる者、そのようにはしゃぐではない」
と、注意してしまった。
”ああっ。わたしは何と愚かなことを!…彼女はすっかりしょげているではないか!”
後悔してもあとの祭り。
ジュリアスは己の生真面目さを呪い、一人で青くなったり赤くなったりしていた。
そのとき。
「キャアッ」
足を滑らせたらしい。
「危ないっ」
よろけた彼女を助けなければ、滝つぼに落ちてしまう!
一瞬のことだったので、躊躇っている暇はなかった。
ジュリアスは後ろからしっかりとアンジェリークを抱きしめたのだった。
”こ、これは…何と!”
こんなに接近、というか接触したのは初めてだった。
”ああ…”
軽く、細い身体。ふわふわした巻き毛。良い香りがする。マシュマロの肌。思わず、その頬にすいつきたくなる。それに、それに-----両手で、しっかり触れてしまった、ふっくらとした、胸…。
彼はその事実に気付くと、
”離れなければ。早く”
と、思いながら、さらにしっかりと抱きしめてしまった。
”何をしているのだ、わたしは”
気ばかり焦っても、身体は硬直してしまい、ますます力が入る。
無限とも思える長い時間、彼はしっかりとアンジェリークを抱きしめていた。
「あ、あの…ジュリアスさま」
遠慮がちにアンジェリークが呼んだ。
「あの…、すみません。…ありがとうございました」
「いっ、いやっ。何の。そのっ。いやっ!大丈夫だっ」
純情可憐な彼は意味不明な言葉を吐き、ぱっと手を離し五歩もずざざっとさがった。
気まずい沈黙の後、彼は、
「帰るぞ」
と、言い放つと振り向きもせずにすたすた歩き出した。
アンジェリークの部屋の前まで来ると、黙って下を向いている彼女に、
「わたしとそなたは守護聖と女王候補だ。わかっているな」
など、とんちんかんな台詞を吐いた。
執務においては首座として誰よりも膨大な迅速な質の高い仕事をこなしている彼であった。が、育ちのせいかどうかは解らないが自分や他者の気持には極端に鈍感である。こうなるとおくてを通り越して、無知に近い。そう言われたアンジェリークががっかりしながら「はい」と言ったことにも気付かず、とっとと去った。
翌日、定刻通りに現れた彼女は、短く育成の依頼をして、去っていった。
その間、24秒。
空しさはいうまでもなく、昨日の自分の態度のせいだということに気付かないのもいうまでもない。
”アンジェリーク”
呆然と座り込み、その後の仕事には一切手がつかなかった。
翌日。
24秒後。
「待て!」
思わず呼び止めてしまった。振り向く彼女に、
「どうか…、したのか」
と、尋いてしまった。
「あ、あの…」
アンジェリークが口ごもる。
「いや。ああ。そなたも忙しいの…だったな。すまぬ。呼び止めて」
「いえ。あの…」
「何だ」
「ジュリアスさまが……、怒っていらっしゃると思って。…おとといのこと」
「な?」
目が点になる。
「わ、わたしは何も怒っておらぬぞ」
「えっ。…そうなんですか?」
「う、うむ。もちろんだ」
アンジェリークの顔がぱっと輝いた。
「よかった。じゃ。明日またお話に来ます!」
そう言って元気に帰っていったのが昨日のこと。
今日はまだ来ない。
時計を見る。
”14時13分…”
まだ、30分以上ある。
溜息を吐いた。
「来客でもあるのか?」
聞きなれた、しかし、最も聞きたくない声が耳に入った。
ジュリアスは椅子から飛び上がると、
「な、ななななっ…、き!き、き、…ききっ、ま…る!!」
と、叫んだ。
「泣き丸?誰のことだ?」
「きっ、きさまだきさま!」
「わたしはそのような名ではないぞ」
「だっ、誰がきさまの名なぞ尋いておる!ここで何をしている!」
「いつそのようなことを申した」
「うるさい!早く答えよ」
「特に用はない」
「ならば、何をしておるのだ!ここでっっ」
「別に。お前を見ていた」
「!」
ジュリアスは真っ赤になった。
それを見たクラヴィスは、
「ふ。先程からまるで百面相だな」
「!!…、用がないなら帰れぇっ」
「なぜ。来客でもあるのか」
クラヴィスは意地悪く笑った。
「な、何を申す。来客など……ないっ」
「なら、よいではないか」
”こいつ!”
「ふ。まあ、あながち用がないわけではない」
「なら早く申せ」
クラヴィスはゆらりと立ち上がると、のろのろ歩き、ジュリアスの執務机の上に瓶を置いた。金色の、美しい透明な液体が入っている。
「何だ、これは」
「ワインだ」
「目的は何だ」
「お前にやる」
「なにゆえ」
「お誕生日おめでとう」
「何?」
「誕生日だろう、今日。リュミエールとわたしからだ」
ジュリアスは絶句した。
「この前、リュミエールがテラ星系の第三惑星に視察に行ったときにわざわざ探してきたものだ。」
「……」
「ソーテルニュという甘口のデザートワインだ。辺境の星のものゆえ現地でもなかなか手に入らぬ。リュミエールは何でもちゃん太という現地の者に頼んで探してもらったそうだ。とても親切なだったと感謝していた。で、礼として、ハーブを贈りたいから来週休暇をとるそうだ」
「…その事務処理をわたしにやれというのか」
「お前の誕生日プレゼントだぞ」
「なおさらだ。そのくらいきさまが自分でやれ。職務怠慢」
「やれやれ」
クラヴィスはどっかりとソファに座る。
「何故座る?用が終わったのなら早く帰れ。これは貰っておく。礼を申すぞ」
”14時44分!”
「何ゆえそのように急ぐ。来客でもあるのか」
「うううるさいっ。来客なぞないと申したであろう!わたしが出かけるのだ。ディ、ディアに用がある!」
「ふうむ。ディアに…な」
「そうだ。行くぞ」
ジュリアスはクラヴィスを追い立て、部屋を出た。
もちろん、ディアに用なんかない。
クラヴィスの執務室の前で彼を中に押し込め、すたすた歩いた。リュミエールの執務室の前で振り向いた。
クラヴィスはいない。
ジュリアスはほっと一息溜息を吐くと、回れ右をした。自分の執務室に戻るために。
4
「ジュリアスさま!」
可愛らしい、元気な声が耳をうつ。
ジュリアスは顔を上げる。愛しいアンジェリークが向こうから走って来る。ジュリアスの顔に笑みが広がる。
「アンジェリーク」
そう呼ぼうとした瞬間。
ビタッッ!!
「あ。うあぁ」
すごい音と共に彼女の姿が消える。
「?」
よく見ると、足下に倒れている。
「大丈夫か」
慌てて助け起こそうとする。
が、そのとき、ジュリアスは見た。
物陰に隠れているアンジェリークを。
”なにっ?”
……アンジェリークが二人…。
呆然とするジュリアスの耳に、
「きゃあああっっ」
と、悲鳴が刺さり、足下のアンジェリークが走り去って行った。だが未だいる。向こうはジュリアスぬ見られていることに気が付いていないらしい。
”これは…夢か?否。きっとクラヴィスのせいだ。あの者と話したせいで疲れているのだ”ジュリアスはよろよろと自分の執務室に入っていった。
「ジュリアスさま!」
可愛らしい、元気な声が耳をうつ。
ジュリアスは顔を上げる。愛しいアンジェリークが向こうから走って来る。ジュリアスの顔に笑みが広がる。
「アンジェリーク」
そう呼ぼうとした瞬間。
ビタッッ!!
「あ。うあぁ」
すごい音と共に彼女の姿が消える。
「?」
よく見ると、足下に倒れている。
「大丈夫か」
慌てて助け起こそうとする。
が、そのとき、ジュリアスは見た。
物陰に隠れているアンジェリークを。しかも二人。
”なにっ?”
……アンジェリークが三人…。
呆然とするジュリアスの耳に、
「きゃあああっっ」
と、悲鳴が刺さり、足下のアンジェリークが走り去って行った。だが未だいる。向こうはジュリアスぬ見られていることに気が付いていないらしい。
”これは…夢か?否。きっとクラヴィスのせいだ。あの者と話したせいで疲れているのだ”ジュリアスはよろよろと自分の執務室に入っていった。
「ジュリアスさま!」
可愛らしい、元気な声が耳をうつ。
ジュリアスは顔を上げる。愛しいアンジェリークが向こうから走って来る。ジュリアスの顔に笑みが広がる。
「アンジェリーク」
そう呼ぼうとした瞬間。
ビタッッ!!
「あ。うあぁ」
すごい音と共に彼女の姿が消える。
「?」
よく見ると、足下に倒れている。
「大丈夫か」
慌てて助け起こそうとする。
が、そのとき、ジュリアスは見た。
物陰に隠れているアンジェリークを。しかも五人。
”なにっ?”
……アンジェリークが六人…。
呆然とするジュリアスの耳に、
「きゃあああっっ」
と、悲鳴が刺さり、足下のアンジェリークが走り去って行った。だが未だいる。それどころか五人ともジュリアスに向かって笑顔で手を振っている。
”これは…夢か?否。きっとクラヴィスのせいだ。あの者と話したせいで疲れているのだ”ジュリアス恐怖に引きつりながら、自分の執務室に入っていった。
”…動悸がする…”
脈を計ってみる。
かなり早い速度で打っている。
”ううむ…。何か悪いものでも食したのか。最近睡眠時間が足りなかったのか…”
コンコン。
ジュリアスはぎくっとして振り向いた。
”お、おお落ち着け!わたしは光の守護聖だ。どのようなときも冷静に、威厳をもって…”
わなわなと震える手でドアを開ける。
「う、うわあああああああぁぁっ!!」
アンジェリークが五人、笑顔でリボンの付いた箱を差し出していた。
「ジュリアスさま!」
可愛らしい、元気な声が耳をうつ。
ジュリアスは顔を上げる。愛しいアンジェリークが向こうから走って来る。ジュリア
スの顔に笑みが広がる。
「アンジェリーク」
そう呼ぼうとした瞬間。
ビタッッ!!
「あ。うあぁ」
すごい音と共に彼女の姿が消える。
「?」
よく見ると、足下に倒れている。
「大丈夫か」
慌てて助け起こそうとする。
が、そのとき、ジュリアスは見た。
物陰に隠れているアンジェリークを。しかも大勢。
”な?”
恐怖に引きつるジュリアスの耳に、
「きゃあああっっ」
と、悲鳴が刺さり、足下のアンジェリークが走り去って行った。だが未だいる。それどころか大勢のアンジェリークがジュリアスに向かって笑顔で走りよって来る。
「う、うわあああああああぁぁっ!!」
ジュリアスは自分の執務室に逃げ帰った。
だが。
コンコン。
ジュリアスはぎくっとして振り向いた。
”お、おお落ち着け!わたしは光の守護聖だ。どのようなときも冷静に、威厳をもって…”
そんなジュリアスの思いをよそに、ドアが開く。
「ジュリアスさま!お誕生日おめでとうございます!!」
…ぷくっ。
大勢のアンジェリークの笑顔の前で、ジュリアスは、泡をふいて失神した。
5
…目の前が真っ暗だ。額に濡れたタオルが当ててあるらしい。
「だから、言ったじゃないですか。本当に全くあなたときたら」
「ごめんなさい。ルヴァさま」
「こんなことが知れたら、わたしだってジュリアスから大目玉ですよ。もうタイムマシンは壊します」
「ええっ。そんなあ」
「駄目です。もうっ。処理がどれだけ大変だったか、あなたにはおわかりにならないんですよ」
「ぶつぶつ」
「何を仰っても駄目です。第一、あなたのその、えーと、かわいこぶりっこって言うんですかあ。…通用するのは、ジュリアスの前だけですよぉ」
”なるほど、そういうことであったか。ルヴァと、おそらくゼフェルであろう”
「ああ、ジュリアスさま早く気が付いてぇ。アンジェの作ったケーキ食べましょ」
”ルヴァが帰ったらな。二人でゆっくり食そう”
「はあ。今回はあなたのために力を貸す約束をしましたが、後悔してますよ」
「えーっ、どうしてですかあ」
「どうしても何も……。何でもするってあなたは仰ったのに、結局は後始末ばかり……」
「そんなこと仰らないで!ねっねっ。ル・ヴァ・さ・ま」
「はいはい。あなたのためなら一肌も二肌も脱ぎますよー。もー」
「ルヴァさま感謝!」
”この二人はこのように仲睦まじかったのか…”
むらむらと不愉快になる。すぐに起き上がろうと思ったが、不自然な気がする。
「せっかくだからここで脱いじゃいますか。幸い人もいないし」
「やだあ、ルヴァさま」
「アンジェリークもいい加減わたしのために一肌ぐらい脱いでくださいよー」
「な、ならぬっ。そのようなことは許さぬぞ!!アンジェリークはわたしの…」
突然、ベッドから身を起こし、そこまで言ったジュリアスは目が点になる。
目の前にアンジェリーク。そこから離れたところにルヴァと、
「ク、ク、クラヴィス…!きさま」
「ふ。気が付いたか。尤も、赤くなったりにやけたり、気絶している割には忙しそうだったな」
クラヴィスが笑う。
「きさまら、…わたしを」
全身がわなわなと震える。握りこぶしが自然に大きく上下する。
一喝しようとしたとき、目の前にアンジェリークのアップが迫る。
「な、な…!」
思わず真っ赤になり、引く。引いた分、さらにアンジェリークが迫る。これ以上反らせないぐらい背を後ろに反らす。
「ジュリアスさま!!ジュリアスさまの何ですか?」
「な、何を…」
「今、仰ったじゃないですか。アンジェリークはわたしのって。その続きは何ですか?」
「う。い、いや、その…、つまり」
「はっきり仰ってください!」
「そうですよ。ジュリアス。ここらではっきりしておいたほうがよろしいですよ」
「何を…、はっきりなぞと」
「素直にお成りなさいということですよ。ねー。クラヴィス」
「ふ。…この者にそのような甲斐性があるなら、な」
「わたしを愚弄する気か。クラヴィスっ。許さぬぞ」
「ジュリアスさま、早く仰って!」
「だから、何を申せと……」
「だから!アンジェはジュリアスさまの何なんですか?」
「そなた、きゅ、急に…何を…」
「だって、クラヴィスさまに言われたんだもん。ジュリアスさまはぶりっこよりもきっぱりしているほうがタイプだって」
「ま。それがアンジェリークの本性ですよ。ジュリアス」
ルヴァがにこっと笑う。
「ま、そういうことだ。気付かぬのはお前だけということだ。だが、これで言わぬなら…」
「あ、クラヴィスさま。わたし知ってます。”言わぬなら言わしてしまおうホトトギス”でしょ」
「それを言うなら、”言わぬなら言うまで待とうホトトギス”でしょー。アンジェリーク」
「いや。違うぞ」
クラヴィスが微笑みながら、アンジェリークの頭の上に手を置いた。
「”言わぬなら奪ってしまおうアンジェリーク”だ」
それを聞いた途端、ジュリアスは、
「ならぬっ!アンジェリークを愛しているのはわたしだ。きさまらには渡さぬ。アンジェリークはわたしのものだっっっ」
ジュリアスは真っ赤になりながら叫んだ。
アンジェリークが胸に飛び込んで来る。
ジュリアスも彼女を抱きしめる。
「アンジェリーク」
「ジュリアスさまっ」
二人はしっかり抱き合った。
暫く、ジュリアスはアンジェリークの髪に顔を押し付けていが、やがてルヴァとクラヴィスのほうを見た。
「いやあ、よかったですねえ。ジュリアス」
「…すまぬ」
少し冷静になった彼は気が付いたのだ。この二人もまたアンジェリークに想いを寄せていたことを。
「いいんですよ。さ。クラヴィス、ディアのところに行きますか。守護聖の首座が女王候補の一人とらぶらぶになったんで、女王はもう一人のほうに決まったって」
「ふ。…そうだな。全く、首座としての自覚も責任も放りだして麗しい愛に身を投じたと、な」
「!☆*$△→!」
ジュリアスの声にならない叫びは解読不能だった。
(完)
「ジュリアス×リモージュの、明るいコメディ。メインは『当惑する光様』。」 |
ジュリアス×リモージュの大長編大河ロマン「女王への階梯」をはじめ、読みごたえたっぷりの創作がそろったサイト「YUKI'S ROOM」でキリ番2723番を踏んで、いただいた作品です。
ああ、「恋する光様」、なんてカワイイの〜〜〜!!
いただいて何度も読み返して、PCの前でニヤニヤする私は、もはや完全に怪しい人です。(滝汗)
そのうえ、私までもゲストに出していただくなんて!!!きゃーー!!
その後水様が拉致監禁されて聖地に帰れなくなっても知りません〜〜!!(←コワレています)
YUKI様の作風は、「格調高いシリアス」なのですが、こんな楽しいコメディも書いていただけるとは。ああ、リクエストしてよかった。
本当に、ちゃん太好みの作品を、ありがとうございました!!
*YUKI様のHPから飛んでらっしゃったかたは、 恐れ入りますがブラウザの「戻る」でおもどりくださいね。 |