+++ 咲き誇る奇跡 +++         by 津森朔夜さま




アンジェリーク
貴女は海の底に広がる砂漠を知っていますか?
叶わぬ想いに海へと身を投げた人魚は泡となって消えたと伝えられていますが・・・
その想いは海の底へと沈み砂の一部となり、いつしか砂漠のように何もかもが枯れていった
・・そう、泣いて、泣いて、涙も枯れるほどの悲しみがその地に眠るという



私の語るおとぎ話を彼女は聞きながら、その瞳に涙を浮かべる。
泣かせるつもりではなかったのに。
私はすぐに後悔の念にとらわれた。

「・・それでも・・人魚はせいいっぱいの恋をしたんですよね。」

こぼれそうになる涙を指ですくい彼女は言った。

「たとえ、それが悲恋でも自分の想いを遂げた・・そんな気がするんです。」


悲しみの中に眠る人魚
叶わぬ恋ではあったけれど
自分のせいいっぱいで王子を愛し、その命さえ恋に捧げた


「少し・・うらやましいです。」
「・・え?」

私が驚いた表情で彼女を見ると、泣き笑いをした微笑がそこにあって。

「自分の・・想いを遂げるその勇気が。」

碧の瞳が涙で揺れる。
腕を伸ばし抱き寄せたい想いにかられながら、私は必死に抑えた。

想いを伝えあうことこそないけれど
互いに恋の中にいることを感じながら
それでも触れ合うことすらかなわない

貴女が女王候補であり、そして私が守護聖である以上
それならば・・・

私は傍らに置いていたハープに手を伸ばした。
そして指先で紡いでいく音に彼女は瞳を閉じる。

無限に広がる音色
天上まで昇りゆくのなら

私は貴女の幸せを願いましょう

それが私のせいいっぱいの貴女への想い

貴女に届いていますか?



++++



リュミエールさま
海の底に広がる砂漠が人魚の悲しみなら
私のこの想いもいつか朽ち果てて砂漠の砂の一部になれますか?


彼の指先から紡がれる音色に私は瞳を閉じた。

彼に似た優しくてあたたかいその音色を。
私はこの胸に抱きしめる。

痛いほどに悲しくそれでいて愛しいこの恋を。
私はこの胸に抱きしめる。

ふいに音色が止まり、静寂が訪れる。
私が瞳を開けると、凛とした水色の瞳が私を見つめていた。

「私は貴女に出逢えてよかったと思っています。」


この恋がかなわないとしても
自分のせいいっぱいで愛せる相手にめぐりあえたそれだけで


「私もです・・リュミエールさま。」

重なる視線でお互いの想いを感じあい、そして微笑をかわす。


海の底に沈みゆく恋ならば
いつかその地の砂となり
永久へと語りつがれていくのでしょうか

この想いのように



++++



「なぁんか、また二人だけの世界ってやつみたいなのよね〜。」

オリヴィエは庭園にいる二人をテラスから眺めてそう言った。

「んー、しかし早く伝えてあげるべきではないのですか?」
「どうしようかなぁ。」
「オリヴィエ。」

伝令をもったいぶる彼をルヴァはさとすような瞳で見た。

「だって、ロザリアが女王就任に決まったなんて言ったとたん、二人はウェディングモード全開になりそうじゃない?」
「まぁ・・そうですね〜・・でも、それこそあなたの得意分野では?」
「え?」
「女王就任式に結婚式・・式典といえばドレスや装飾品の類が必要になってきますし〜」
「そうよっ!たまには、いいこというね、アンタも。それこそワタシの出番じゃな〜い。さっさと伝えて準備に入らなくっちゃ〜。忙しくなりそうね〜♪」

慌てて駆け出していくオリヴィエの背中を見送りながら、ルヴァはふっと安堵の息をついた。


リュミエール、アンジェリーク
あなた方は海の底の砂漠の話を知っていますか?
人魚の悲しみに埋もれたその砂漠に小さな花が咲くという
そう、真実を知った王子が彼女が沈んだ海へと、花束とともに落とした涙が海底にたどりつき、砂を潤し小さな白い花を咲かせたそうです
おとぎ話かもしれませんが、私はあなた方をみてその話を思い出しました
たどりつく先がどうなるかわからないにしても、お互いの想いを信じあう力があれば奇跡さえも起こせるのではないかと・・ね



++++


カーテンから差し込む朝の日差しにアンジェリークはふっと目を覚ました。
隣を見れば端整な横顔の瞳はまだ閉じたままで。
長い水色の髪が白いシーツの海を漂っている。

アンジェリークは彼を起こさないよう息をひそめ、そっとその腕に触れた。
彼のあたたかなぬくもりにこれが夢ではないことを知る。


夢じゃないってわかっているけど
やっぱりまだ夢のよう

大好きな彼の隣で眠りそして目覚める

至上の幸せの中


触れた腕にきゅっとしがみついて酔いしれる。

「・・アンジェリーク?」

優しいその声にアンジェリークは顔を上げて。

「ごめんなさい、起こしちゃいました?」
「いいえ。あの、どうかしましたか?」
「え?」
「怖い夢でも?」
「ううん、違います。・・・夢じゃないって確認したかっただけです。」

そう言った途端、アンジェリークはリュミエールの両腕に包まれた。

「えぇ、夢じゃありませんね。貴女はこんなにもあたたかい。」
「・・リュミエールさまも・・」

アンジェリークもまた腕を伸ばして彼を抱きしめる。


海の底の砂漠に咲いた小さな白い花
永久へと語り継ぐのなら
いつか人魚と王子が再び結ばれるよう
願いを込めて咲き誇る


Fin


ひたすら甘い(しかも、さわやかな甘さで後味すっきり)ジュリリモ&クラリモ&リュミリモ&オリリモが堪能できる津森朔夜様のサイト「MoonLight Honey」で
すばるが30000番を踏んで書いていただいたものです。
お題は「海の底の砂漠、のエピソードにまつわるリュミリモ。」やはりお得意のロマンティック路線をお願いしなくては。
リュミリモなのは開設以来ずーっとキリ番を狙い続けことごとく外している(大抵5番違い以内)ちゃん太へのサービスだとか。ありがと。

そして。
これですよ、これ。甘くて切なくて、ほんわり幸せで。正直、遙拝所のメンツじゃ、どうやっても書けない世界。流石ですわ。
「友情出演のルヴァ様のポイント高し!!激萌え〜なセリフにしっかりのけぞらせていただきました」とはすばるの弁。
メインの二人だけでなく、地様夢様も本当にいい味出しているあたりに、アンジェリークの世界への深い愛を感じてしまうのでした。

津森朔夜様、すてきなお話をどうもありがとうございました。

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