My place is the side of you    by あさぎりまいむ様


深々と降る雪の中で少年は一人地平を眺める。
ただ、一人。
辺りには何者の気配もない。
白の世界。
ここに存在するのは何者にも染まらないただひたすら守るだけの人々。
そんな古めかしい世界でしばらくは生きてきた。
しかし、彼はそこの暮らしに満足できなかった。
ひたすら単調な毎日。
変わらない人々。
変化のない心。
この惑星(ほし)に流れる時間は永遠に変わらない・・・
古(いにしえ)のままに・・・


自分がどんどんいなくなる、そんな気がした。
この世に生を受けた意味を探した。
初めて、自分を求めた。
「オリヴィエ」という人間を。


やがて彼は飛び出した。
自らを求めて。
そして彼は故郷を捨てた――――




「・・・うん・・・」
故郷から離れていく少年を呼び止めようとして声をかけるが相手は全く振り返らずに進んでいく。
どうしたら『彼』を止められるのだろうか。
喉元からうめくような声を出しているオリヴィエに気が付き傍らで読書をしていたルヴァは声をかけた。

「オリヴィエ…オリヴィエ? 大丈夫ですか??」
ゆっくりと彼の肩をゆする。
『彼』が行ってしまう、止めないと、そんな思いが込み上げてきてオリヴィエは声をあげる。

「・・・・・・待って・・・」
「オリヴィエ!!」

今度は強く体をゆすり、声をかけた。
いきなり大きな声をかけられ目が覚めたらしいがオリヴィエはしばらくは呆然としていた。

「大丈夫ですか? すごくうなされていたようですが・・・」
「うなされてた?・・・・夢なの・・そう・・・」
あの少年は自分がみた、自分の過去の残像。
忘れがたい心の記憶だった。
(・・・忘れたと思っていたのに・・・)
どうやら故郷に近い環境に滞在したために思い出してしまったらしい。

(たまんないねぇ・・・全く。・・・嫌になるよ・・・)
乱れてしまった髪を整えながら一人物思いにふける。
「もうすぐ着きますよ。お待ちかねの主星にね。」
ルヴァの声でオリヴィエははっと我に返った。
「そう。ありがと・・・」


女王陛下の命を受けて『地の守護聖』と『夢の守護聖』はある惑星にほんの数日、滞在していた。
そこは雪の降る、極寒の惑星(ほし)だった。
『寒冷な惑星』の出身だった彼には自分の故郷と重なる部分があったようだった。
いつもは軽薄なくらい明るい彼がこの惑星に滞在の間、明るい笑顔をこぼしたのは、ほんの数回程度だ。
それに気付いていたルヴァだが何も語らなかった。
同じ守護聖として、友としてそれが最良の方法だと知っていたから。
過去の出来事はどんな人間においてもあるのだと何となく思っていた。
それが心に引っかかっている記憶ならなおさらだった。




主星は春のような暖かさだった。
花は咲き乱れ、小鳥は歌い、まさに生命が溢れていた。
オリヴィエは眩しそうに目を細める。
「あ〜、やっと着きましたね。ここに来るとほっとしますねぇ〜〜。」
微笑みながらルヴァは語る。
「うん、そうだね・・・」
「オリヴィエ・・・」
「何?」
「あっ・・・いいえ、何でもありません。」
「な〜に?変なルヴァ!」
無理して笑顔を作っているような気がしてならなかった。

ルヴァはためらいがちにそっと問う。
「あなたは後悔しているのですか?」
「! どういう事?」
「あの・・何となくです。あの惑星に行ってから、あなたは辛そうでした。」
「ルヴァ・・・」
「・・・本当は言わないつもりだったんですけどねぇ・・・
以前、聞いた故郷の話を何となく思い出して。・・・それで。
そんな気がしただけです。私の想像ですけど・・・」
少々表情を曇らせて話したルヴァを見てオリヴィエはしょうがない、というような困ったような表情で見つめ返した。

「うん・・・どこかで後悔していたのかも。
・・・・・・故郷を捨てた事。それがずっとどこかで引っかかっていた。
家族もいたけれど、私は自分の道がほしかった。
だからこそ故郷を離れた。そして探したんだけどね・・・自分の居場所を。」
「見つかりましたか?」
さっきの表情とはかわりにっこりと微笑む。
「う〜ん、どうだろうね。まだわかんない・・・」

「オリヴィエ様〜!! おかえりなさい〜♪」
がばっと自分の腰に華奢な腕がまわされた。
「!! アンジェリーク!?」
「えへへ♪ 待ってたんですよ〜〜!!」
呆気にとられるオリヴィエ。
くすくすと笑いながら肩を震わせるルヴァ。
「ルヴァーー・・・」
「いえ、ここに来る前に連絡が入ったもので。ね、アンジェリーク」
「そう、ルヴァ様に教えてもらったの♪
どうもありがとうございました、ルヴァ様。」
そういうと腕を放しぺこりとお辞儀をした。
「どういたしまして。それじゃ、私はこれで。」
「全く〜。私にも秘密にして!」
アンジェリークの額をちょこんとはじいた。
「だって、オリヴィエに“おかえりなさい”を真っ先に言いたかったの。」
「え?」
「私、オリヴィエ様に少しでも役に立ちたいな〜って思って。
ルヴァ様に相談したら“おかえりなさい”って行ってあげたら喜ぶって・・・だから・・・」
頬を赤らめてそっと呟いた。
スカイブルーの瞳は真っ直ぐにオリヴィエを見つめたままで。
「!?」
オリヴィエの頬には知らずに涙が溢れてくる。
自分の求めていたものは、こんなにも身近にあった。

『自分の居場所』

「どうしたの?オリヴィエ様!!私、悪い事言った?」
アンジェリークはオロオロするばかり。
「ううん。違うの・・・嬉しいから・・・あんたの言葉が。」
そういうとアンジェリークを優しく包み込んだ。
ぎゅっと抱きしめた時にオリヴィエの心に温かさが広がる。
今まで凍っていた心がやっと雪解けを迎えたように―・・・

「オリヴィエ様・・・」
アンジェリークはただ腕をまわし彼の背中をぽんぽんと優しく叩く。
まるで母親が子供をあやすように。

「アンジェリーク・・・私の話を聞いてくれる?」
「もちろんです。オリヴィエ様のお話ならどんなことでも。」
「ありがとう。アンジェリーク・・・」
アンジェリークはにっこりと微笑みを返しただけだった。
オリヴィエはアンジェリークの耳元にそっと唇を近づけた。
「ただいま。アンジェリーク」



                                         END


オールキャラのほのぼのとあたたかいお話(とくに夢様が素敵!)と可愛いイラストが堪能できるサイト
「+++GARNET+++」の2500番をすばるが踏みまして、
あさぎりまいむ様に書いていただいたお話です。
お題は「夢様のお話で、過去をからめたりしたもの」。

すばるのファースト、ルヴァ様も出していただけて、うちにはない絶妙の甘味加減で、大満足。
あさぎり様の書く夢様はそれはそれはかっこいいのですが、こういうちょっと弱っている夢様も絶妙!ああ、これが愛なのね。ふふふ。

あさぎりまいむ様、すてきなお話をありがとうございました!

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