告白         BY はとみ様



「ジュリアスさま?」
夕暮れ、森の泉の滝の前に佇みながら、女王候補、アンジェリーク・リモージュはそこに突然現れた人物を見た。
「そなたか……このようなところで何をしていたのだ?」
それは、金の長い髪を水面を渡る風に少しなびかせている、美しい人。

……アンジェリークの想い人、光の守護聖ジュリアスだ。

「あ、あの……」
そう言って言葉を詰まらせるアンジェリークを見ながら、ジュリアスも何故か次の言葉が出てこない。

「……もうすぐ…女王試験も終わりになる……。そなたにはこんなところでふらふらしている暇はない筈では……」
やっとジュリアスが搾り出したのがそんな言葉だ。

アンジェリークの顔が曇った。
ジュリアスも、急いでその言葉を打ち消す。
「……いや、すまなかった。言葉が過ぎた。そなたはもう十分努力もしたし、立派な結果を残した。…程なく、そなたは……」
だが、アンジェリークの顔は晴れない。

(そなたは、程なくこの宇宙の女王となるだろう、アンジェリーク。)
女王試験の中ほどを過ぎた頃から、もうジュリアスにはわかっていた。
何をやらせてもそつなくこなす、成績優秀なロザリアではなく、決して要領が良いとはいえないが女王にもっとも大切な『力』を持っている、この金の髪の少女が次の女王になることが。

そして、ジュリアスの心を、この少女が変えて行ったことも。
そう、それは長い時を過ごしてきた彼にも初めての感情。

(私は、この少女を……)

そして、その先は、心の中でさえ禁句にしてきたことを。

「アンジェリーク……なぜ、黙っている。」

アンジェリークは、俯いたままだ。泣いているのか?
ジュリアスは、そっと彼女に近づき、その華奢な肩を軽く支えた。

「わたし……わたし、あの……」
「なんだ?」
「あの、わたし、ジュリアスさまのこと……」

ジュリアスの胸が、アンジェリークに聞こえるのではないかというほど、大きな音を立てたような気がした。

どきん。

「何を……」

どきん、どきん。

「ジュリアスさまのこと……、……す…そ、…尊敬しています。」

ちくん。

大きな鼓動はまだ続いている。しかしジュリアスが感じたのは、本当に小さな棘。

「……何を……改まって、いきなり言うのかと思えば。そのようなこと、言わずとも良い。そなたを見ていれば、陛下やディア、そしてそれぞれの守護聖をきちんと敬って、適切な態度を取っていることはわかる。」

(嘘だ。私は嘘を吐いている。彼女がゼフェルやランディ、いや他の守護聖全てと楽しそうに話しているところを見て、私は…醜い嫉妬心をやっとのことで押さえているではないか……いったい、なんと言うことだ。この私としたことが、こんな……)

「このようなところに立っていては、体が冷えてしまうぞ。さあ、寮に戻るのだ。私が送って行こう。」
「………はい…」

アンジェリークは下を向いたまま、呟くように答えた。





「良いな、アンジェリーク。そなたは疲れている。今夜は早く休むが良い。そなたは立派に試験をやり通した。もう、何も心配することはない。そなたも、ロザリアも立派な女王候補であった。……そうだな、できることなら陛下とディアのように、試験が終わっても、どちらが女王となろうとも、ここに残って支えあってゆけたら良いと思う。
……いや、これは私の…。戯言だ、忘れてくれ。」

ジュリアスの心には、一瞬だが、女王となることを自ら拒否するアンジェリークを望む自分がいた。ジュリアスは頭を振ってその幻を追い払う。

女王候補寮のアンジェリークの部屋で、ジュリアスはアンジェリークの柔らかい金の髪を軽く撫でながらそんなことを言った。

「ジュリアスさま……。いろいろと、ありがとうございます。」
「いや、守護聖として当然のことだ。これからも……」

これからも……女王を助ける守護聖として……そうなのだ、私の役目は……。

「おやすみなさい、ジュリアスさま。」
「おやすみ、アンジェリーク。」

ジュリアスはくるりと後ろを向き、部屋を出て行った。振り返ることもなく。

アンジェリークはベッドの上に突っ伏して、泣いた。
「ジュリアスさま、ジュリアスさま……ぁ……っ」
こんなに好きなのに。あなたが好きなのは、立派な女王候補。あなたが命を賭けて守護るのは宇宙の女王。

そう、あなたが尊敬する女王になってみたかったのも本当。
あなたに守護られてみたかったのも本当。

でも怖かったのも本当。
あなたに「好き」と告白なんかしたら、きっとあなたは私を軽蔑する。
あなたに嫌われるくらいなら、女王になって、あなたにずっと傍にいて欲しい。

でも。

あなたが好き。
あなたが好き。
あなたが好き。

あなたが大好き。





アンジェリークの部屋を出たジュリアスは、そのままずんずんと聖殿への道を歩む。

ただ、一度だけ、部屋の方を振り返る。

アンジェリーク、私は、おまえを。

だが…その先は、言ってはならぬ。
新しい宇宙には、彼女のサクリアが必要なのだ。
私が、それを阻むことは許されぬ。
首座の、光の守護聖、ジュリアスとして。

私だけのものにしてはならぬのだ。

……いや、大体そんなことを告げたとしても、彼女が私を受け入れるとは思えぬ。
彼女は私を軽蔑するかもしれない。いつも女王のことばかり言っていた私がこの期に及んで女王になるな、などと言ったりしたら。
だが彼女が女王になれば、私はずっと彼女の傍にいることができる。

それでいい。

だが。

おまえを……。
私はおまえのことを……。



そして、その夜。
ジュリアスの送ったサクリアによって、大陸の中央の島に新しい営みが生まれた。



この二人がお互いの気持ちを打ち明け合うのは、もう少し先のこととなる。


当遙拝所の拝殿におわします、ご本尊な光様を描いてくださった、はとみ様のサイトのひとつ、
「愛と勇気2000」で、キリ番18161の一番違いを踏みしめて、お忙しいはとみ様より無理やりもぎ取った(ような気がする)作品がこれです。
お題は、はとみ様のHPのジュリリモ第1作、「女王命令」より前の、「もどかしいふたり。」

ああ、このもどかしさがたまりません!!
アンジェの、光様の独白のせつないこと。けなげで可愛いアンジェ。やっぱり悩んでいるところが一番絵になる光様。

でもこのせつないお話も、とっても幸せな続きがあるのを知っているからこそ存分に楽しめるのでした。
幸せなふたりが見たい方は是非ぜひはとみ様のHPで「女王命令」以下の作品を読んでくださいね。とろけます。

はとみ様、いろいろ無理言ってすみませんでした。こんな素敵な作品に仕上げていただいて、とっても嬉しいです。
本当にありがとうございました。

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