未完成の心      by 神野水鈴さま



ここはゼフェルの私邸。今日は日の曜だ。守護聖それぞれ思い思い過ごしている日。
ゼフェルは私邸へ帰り、機械を作っている。

「・・・ルサマ」

「・・・・・・よし、これをつけて・・・」

「・・・フェルサマ」

「・・・くそっ。失敗か・・・」

「ゼフェルサマ!!」

ガキッ

お茶汲みロボットの鉄拳が飛び、見事にゼフェルの頭に直撃した。

「いってー!!何すんだよ!」

「ゼフェルサマ、お客サマ!」

ロボが指したところには、一人の女の子がいた。
金色の髪、大きな瞳、そして、高貴な雰囲気を漂わせている・・・それは・・・。

「ん?あれって・・・・・・アンジェリーク!?」

そう。ゼフェルの元に訪れたのは現女王陛下、アンジェリーク・リモージュだった。

「何してんだよ。おめー、女王だってこと忘れてんのか?」

女王にもかかわらず敬語を使わないゼフェル。
女王試験時代の頃の癖が抜けていない・・・というより元から敬語は使わない。

「もう。せっかく来たのに第一声がそれ?」

頬を膨らませて怒るリモージュ。彼女の場合、怒っても可愛い。

「来たってなあ・・・。『宮殿を抜け出してきてありがとう』とでも言えってか」

「うん」

当たり前という顔でけろっと答える。
女王はいつも忙しい。誰にも会うことなく過ごす日は多い。
特にゼフェルには一番会えない。
仕事をあまりしないし、女王の執務室は嫌いだと言っていたのを他の守護聖から聞いた。

「ねえ、何作ってるの?」

「・・・ったく・・・」

「ねえったら」

「はいはい。これはな、新しく作ってるロボットだよ」

といって散らかり放題の部屋にある部品を見せた。

「へー。どんなのどんなの?」

部屋の散らかりようなど気にも留めず、ゼフェルに説明を促す。

「これはな、今いる・・・ほらそこの。変な言葉しゃべるやつだよ。
あいつについていない機能をつけようと思ってな。」

「ワテノドコガ言葉遣イガ変ナンデッカ」

ゼフェルの横についていたロボが感情豊かに反論する。

「これよりすごいの作るの?」

「ああ」

「すごーい。さすがゼフェルね!」

拍手しながらゼフェルを褒める。

「そ、そうか?」

そして照れるゼフェル。

「作ってるところ見てていい?」

上目遣いにゼフェルを見上げる。
せっかく来たのに見ているだけでいいのかと思ったゼフェルだったが、
リモージュがそれでいいと強く言うので反論はしなかった。




数分後・・・・・・。


ゼフェルが黙々とロボを作っているのをリモージュは見守っている。
一見、何も問題ないと見えるこの光景。
実は、ゼフェルの心境は穏やかではなかった。

ゼフェルは彼女が女王候補の時から密かに想っていた。

女王になったからと諦めたつもりだったが、そうはいかなかった。
何かといえば、リモージュはゼフェルの所へ来て、仕事を手伝ったり、話をしたりしている。
女王の仕事があるというのに。

ったく・・・何でそんな近くで見てんだよ。
ゼフェルはロボを組み立ててはいたが、なかなか上手く噛み合わない。
つまり、緊張しているのだ。

「・・・・・っ」

がしがしといらだって組み立てていたら、指を傷つけてしまった。
赤い血が指をたどる。

「ゼフェル!・・・大変、結構深く切っちゃったみたいね」

すぐさまゼフェルの手を取り、怪我の具合を確かめる。
指からは血が止まることなく流れている。

「これくらい、平気だ」

「何言ってるの。・・・・・・」

リモージュは何かを考えたと思ったら、おもむろにゼフェルの指をなめ始めた。

「!何してんだよ!」

ゼフェルの顔は真っ赤になり、勢いよく手を放す。

「何・・・って消毒」

「しょ、消毒ってなあ・・・おめー・・・」

「うん、血止まったかな?ちょっと待っててね」

そう言うと、部屋から出ていってしまった。

「・・・・・・」

残されたゼフェルはすっかり血の止まった指を見つめていた。

「・・・なんでこんなことすんだよ・・・・・・」

さっきの光景が目に浮かぶ。

「・・・・・・あきらめきれねーだろーが」

小さく、そして悔しくつぶやく。




「ゼフェル」

戻ってきたのかリモージュが声をかける。

「・・・・・・何だよ」

少し苛立って答える。

「救急箱持ってきたから。手当てしないと」

再びリモージュはゼフェルの側に来て、てきぱきと指に包帯を巻いていく。

「いつもとろいって言われるけど、これはしっかりできるのよ?」

よく転んでたからね。
と優しく手当てをするリモージュ。
そんな様子を見ているゼフェルはさらに苛立ちを感じていた。

「よし、できた!」

きれいに巻かれた包帯。確かに言ったとおり、上手くできている。
しかし、ゼフェルは何も言わず、ただ包帯を見ていた。

「ゼフェル・・・?どうかしたの?」

「・・・いや、別に・・・・・・」

ゼフェルの態度がおかしいと感じながらも片づけを始める。

「・・・・・・おめーさ」

大方片づけが終わったとき、ゼフェルが話しかけた。

「ん?」

リモージュは片付けのついでにゼフェルの部屋も片付け始めていた。

「・・・なんで、こんなことするんだ?」

ピクっと手が止まった。

「なあ」

「・・・さあ、どうしてでしょう?」

あいまいに答え、また片づけを始めた。

「ちゃんと答えろよ」

「・・・・・・」

片づけに集中しているのか、それとも答えたくないのか、ゼフェルの問いを無視している。

「・・・はぁ」

しばらく、答えを待っていたが、リモージュの心理はわからないまま。





やがて、部屋の掃除が終わり、ゼフェルの所へ来る・・・・・・かと思ったが、そのまま帰るようだ。

「ねえ、ゼフェル」

ドアのところで止まり、振り返らずに声をかける。

「?」

「私の答えはね・・・・・・」

「・・・・・・!」

何かを言い、出て行ってしまった。

「・・・反則だぜ」

再び赤くなった頬を両手で押さえ、その場にへたりこんだ。



小さく聞こえた言葉・・・それは・・・。




『ゼフェルが誰よりも大事だから』





その日からゼフェルの笑顔がよく女王の執務室で見られるようになったとか。


神野水鈴さまの、鋼様への愛に溢れたサイト「Steel Angel」で、すばるが9000番を踏んで書いていただきました。
お題は「包帯を巻いたゼフェルが出てくるゼフェリモ」。なぜ包帯なのかはとりあえず謎。

そして頂いたお話ではゼフェル少年の可愛さが炸裂!リモちゃんでなくっても「かいぐりかいぐり」したくなるではありませんか。
ちょっと大胆なリモージュ女王もイイ味出してます。
神野水鈴さま、すてきなお話をありがとうございました!

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