2011年ルヴァ様バースデイ記念

恋におちたカタツブリ


○神鳥の宇宙主星・歴史博物館

古代の壁画や工芸品、楽器などが展示されている。

○同・ルヴァの部屋の前〜中

『考古学専任・ルヴァ研究室』と書かれたプレート。
半開きのドアからルヴァの姿が見えるが、ジョウロを片手に右往左往している様子だ。
ルヴァ 「ほらアンジェリーク、意地悪しないで出て来て下さい…アンジェリーク」
と、困った顔つきで、窓際のアジサイの鉢に水やりをしている。
やがて葉の裏から姿を見せる小さなカタツムリ。
ルヴァ 「(急に笑顔になり)ああ! そこにいたんですか。全く人騒がせですねえ〜」
オリヴィエの声 「『人騒がせ』なのはどっちよっ」
ルヴァが振向くと、きらびやかな衣装に身を包んだオリヴィエが腕組みをして立っている。
ルヴァ 「オリヴィエ!」
    × × ×
片隅にある応接セット。
テーブルにコップを二つ並べピッチャーから茶色の液体を注ぐルヴァ。
ルヴァ 「最近『冷やしあめ』にはまってましてねー。まずは一口飲んでみて下さい」
コップを持上げ、うさん臭そうに眺めているオリヴィエ。だがルヴァのニコニコ顔に負けて一なめしてみるのだ。
オリヴィエ 「あら? 意外にイケてるかも」
と、次は一飲み、最後にはのどを鳴らして飲み干してしまう。
オリヴィエ 「何なのコレ! 見た目より中身の典型ってカンジ!?」
ルヴァ 「そうなんですよ。オリヴィエならきっと気に入ってくれると信じてましたよ」
と、執務机の所へバタバタと走っていき、机の下から大きな壷を引き摺り出してくる。
ルヴァ 「昨年古代ショウガを発掘しましてねえ。私の総力を結集して育ててみたら、ほらこの通り!」
壷の中にはショウガがいっぱいだ。
オリヴィエ 「やるじゃない」
ルヴァ
「ええ、ええ、なかなか上質でしてねー、うんうん。そうだ、今度はショウガジャムを作ろうかと思ってるんですよー。次来た時は持って帰って下さい」
オリヴィエ 「(片眉を上げ)それって陛下にも持ってけってこと?」
ルヴァ 「(表情をこわばらせ)いえ、そんなつもりでは…」
オリヴィエ 「陛下、毎日泣いてるよ。アンタが急に退任しちゃって、しかも『さよなら』も言わずに聖地からいなくなっちゃったもんだから」
ルヴァ 「まさか!」
オリヴィエ 「…バーカ、嘘に決まってるでしょ、何てったって女王陛下なんだから。…でもね、明るく元気そうに見せてる分、何だか痛々しいよ」
ルヴァ 「オリヴィエ…」
オリヴィエ 「それに、アンタの方こそ大丈夫なの? さっきアジサイのこと、『アンジェリーク』なんて呼んでたみたいだし」
ルヴァ 「そっ空耳じゃありませんか?」
と、古代ショウガを壷から出したり入れたりし始める。
オリヴィエ
「そういえばアジサイの花言葉って『忍耐強い愛』だってマルセルが言ってたわね。忍耐にもホドがあるってもんだけど。(立上がり)それじゃそろそろおいとましますか」
ルヴァ 「へっ?もう帰っちゃうんですか?」
オリヴィエ 「アンタの顔見たくて寄っただけさ。こう見えて意外と多忙だってこと、よーく知ってるでしょ。じゃーネー」
と、ハイヒールの音を高らかに鳴らして去っていく。
残念そうなため息をついて、再び窓際へと戻るルヴァ。
アジサイの葉の上でカタツムリが愛らしく角を曲げている――
ルヴァ 「やはり貴方に名前を付けたのは間違いだったんでしょうかねぇ」

○聖地・正門(早朝・ルヴァの回想)

門をくぐろうとするが立ち止まり、景色を目に焼きつけるように見ているルヴァ。
ルヴァ 「聖地…私の第二の故郷…」
そこへチュピが飛んで来てルヴァの肩に停まる。続いて――
マルセルの声 「お待ち下さい、ルヴァ様あ」
マルセルがアジサイの鉢を抱えて走って来る。
マルセル 「この花、以前お好きだっておっしゃってましたから、どうぞ!」
と、アジサイの鉢をルヴァに持たせる。
ルヴァ 「ありがとう、マルセル」
マルセル 「(みるみる涙を浮かべながら)ルヴァ様、どうか僕たちのこと、忘れないで下さいね」
と、つらそうに走り去っていく。
チュピもすぐにマルセルを追う。
ルヴァ 「(チュピの姿が見えなくなり)…忘れるものですか…」

○元のルヴァの部屋

ルヴァ


「…この鉢の中で貴方が冬眠していたとわかった時、私はどんなに驚いたことでしょう。そして眠りから覚めた貴方が殻の中から小さな身体を伸ばして私を見上げた時、どんなに嬉しかったことでしょう。き っと貴方は私がひとりきりで淋しくならないように、はるばる聖地から付いてきて下さったんですよねー、うんうん」
と、カタツムリの角を軽く突つく。
オリヴィエの声 「なるほど。そういうワケだったのネー」
いつの間にかルヴァの後ろに立っているオリヴィエ。
あまりのショックで尻餅をついてしまうルヴァ。
ルヴァ 「いっいつからそこにいたんですか! ?」
オリヴィエ 「アンタがボーッとそのカタツムリちゃんと遊んでた間によっ!!」
と、気色ばむがすぐに冷静なトーンに戻り――
オリヴィエ
「(ルヴァを助け起こしつつ)さっき言い忘れてたことがあってね。陛下ってばここんとこ考えられないようなミス連発でさー、ひょっとしてスランプ?とも思ったんだけど、どうやら単なるスランプでもないみたいでねェ」
ルヴァ 「スランプじゃない? だとすると…」
と、ハッとしてオリヴィエの顔を見る
オリヴィエ 「ヤンなっちゃうよ。ついこないだ地の守護聖が交代したばっかりだっていうのに、お次は女王交代ってワケだよ」
完全に固まった状態のルヴァ。
オリヴィエ 「わかったでしょ。だから多忙なのよ私。自慢の髪をお手入れする暇もありゃしない」
と、髪をバサバサと揺らしながら部屋を出ていくのだ。
× × ×
いつまでも動かないルヴァをじっと見上げているカタツムリ。
ルヴァ 「(ハッと我に返り)女王交代…ということは…アンジェリークに会える…会えるんですね!」
と、思わずバンザイしてしまうのだ。
窓に映るバンザイの姿に、自分がおかしくなってしまうルヴァ。
そして照れて両手をカタツムリの角の如く少し傾けるのだ。
窓の外の陽ざしもやわらかい――

(おしまい)