フリスビー刑事ティムカ編・第4話
 「刑事の品格」


○『情報屋』・中

モニターのメール情報とにらめっこしているチャーリー。
窓際で煙草をふかしているオスカー。
チャーリー 「ティムカってお人の出生に関するネタは全くお手上げですわ。海岸で発見されたんが三、四才。本人の記憶も名前以外は思い出せんかったそうです。行方不明の子供にも該当者はなかったと…」
オスカー 「『船玉様』の子と言われるのも、まんざら的外れじゃないかもな」
チャーリー 「そうゆーたらこんな『船玉様伝説』知ってます? 『船玉様』は女の神さんなんですけど、昔、オスカーはんみたいな色男の人間を好きになってしもたんですな。せやけどもっとえらい海の神さんに怒られて泣く泣く彼氏を陸に帰さないかんことになったんですわ」
オスカー 「いつの世も罪な男はいるもんだぜ」
チャーリー 「けど女の業なんですなあ、船玉様はその彼氏を小さい子供の姿に戻してから帰したんですわ」
オスカー 「つまり浮気封じをしたんだな。神様でもヤキモチを焼くものかねえ」
チャーリー 「どないです? ティムカはんが男前でしたら船玉様の子やのうて彼氏かもわかりませんでー」
オスカー 「そうだな。俺には到底及ばないから、その線はなしかな。忙しいところ悪かったな。謝礼はこの娘とのデート1回でどうだ?」
と、チャーリーにケータイの写真を見せる。じっと見るチャーリー。
チャーリー 「…まあ今日の分はツケにしときますわ。毎度ありィ!」

○港

ティムカの小船が停泊している。
船の側で、ティムカから踏水術のレッスンを受けているリュミエールとランディ。
ティムカ 「『決して水とケンカしないこと』、それが何よりも大切と言っても過言ではないと、僕は思うんです」
ランディ 「…それがなかなか…」
と、浮き沈みが激しく、水しぶきが上がりっぱなしだ。
一方リュミエールは少しずつコツがつかめてきたようである。
リュミエール 「…ああ、今ほんの少し、水が私の心をくみとって下さった気が致します」
ランディ 「先輩、吸収力ありすぎですよ…(急に小声になり)けどアル達を追わなくていいんですか?」
リュミエール 「(同じく小声で)彼らはまだアギオが生きていることを知りません。下手に動かない方が今は得策です。それにこの『踏水術』は後で必ず役立つはずです」 
ティムカ 「…お疲れになりましたか? では船に引上げて休みをとりましょうか」
リュミエール 「いいえ。せっかくですがもう少し続けさせていただけますか。この感覚を身体に覚え込ませたいのです。
♪となりのヤックザ、ヤックーザ…」
と、『となりのトトロ』の替え唄でリズムをとっている。  
ティムカ 「やはりリュミエールさん、ただ者ではありませんね、フリスビーさん」
ランディ 「ええ。先輩の底知れなさはうちの署では知らない人いませんから…」

○海岸

岩陰に停泊しているハナフサ丸。
数人の部下を従え船に乗込むウルフォード。

○ハナフサ丸・中

ウルフォードとアルが二人だけで話し合っている。
アル 「それじゃあ次の船が最後ってことですね?」
ウルフォード 「そうだ。アギオを始末したとはいえサツにはねちっこいのがいるからな。
 ここらが潮時だろ」
アル 「わかりました。『金魚屋』のネタは既にこの船に運び込んでますんで、最後の取引が済んだらまとめて東京に…」
ウルフォード 「いやそれも今はマズい。ほとぼりがさめるまではここに置いとけ。くれぐれも若い奴らに横流しされねえようにな」
アル 「へえ、そりゃもう」
と、ウルフォードの残虐な笑みに脅え切っている。

○七聖警察署・捜査課

係長デスクに横一列に並べられた口紅。
オリヴィエ 「リュミちゃんの唇って何でも合いそうだけど…ねーオスカー、アンタならどれ選ぶ?」
面倒そうに横目で見るオスカー。
オスカー 「…海に沈む真赤な夕日色がいいんじゃないか?」
オリヴィエ 「あ〜らロマンチックなこと」
電話が鳴り素早くとるオリヴィエ。
その勢いでバラバラと口紅が倒れていってしまう。
オリヴィエ 「…了解! すーぐウチのスゴ腕行かせるから(と受話器を置き)アギオのお姫様、ようやくお目覚めしたよ」
とウィンクするや、オスカーは部屋を飛び出していく。
係長デスクには1本だけ口紅が立ったまま残っている。
オリヴィエ 「(口紅を取上げ)係長賞はこれで決まりね☆」

○ティムカの小船

ティムカ手作りのスープを飲んでいるリュミエールとランディ。
ランディ 「俺、泳ぐのは得意なんだけど『踏水術』はまるでダメですね…どんどん先輩に置いてかれる感じです」
リュミエール 「誰にでも向き不向きはあります。私はたまたま水との相性が良いのでしょう。フリスビーだって日に日に上達しているではありませんか、ねぇティムカさん」 
ティムカ 「はい。初日に比べたら格段に技術が上がっていますよ、フリスビーさん」
ランディ 「そうかなあ…うーん…」
と、納得できずうなるばかりだ。
ティムカ 「僕は物心ついた頃からこの村で、海と共に生きてきました。そして海は様々なことを僕に教えてくれた。繰返し繰返し教えてくれたこと、それは、目に見えるものは必ず消えるということです」
ランディ 「えっ? 俺の頭じゃ言ってることがよくわからないんだけど…」
ティムカの顔を凝視しているリュミエール。
リュミエール 「(ハッと気づいたように)フリスビー、こういうことですよ。上達の度合いは目に見える変化だけでは測れません。問題は心の中にあるのだと。その解釈でよろしいですか? ティムカさん」
ティムカ 「はい。流石はリュミエールさんですね。ですからフリスビーさん、もっと自信をもって下さい」
と、にっこり微笑む。その笑顔を思い詰めた様子で見つめるリュミエール。
突然ケータイが鳴る。
 リュミエール    「はい。こちらリュミエール…」

○七聖警察病院・表

オスカー 「アギオから情報が聞けた。それとマル暴さんの方からもとっておきの話があってな。今度こそウルフォードの首根っこを押さえられそうだぜ」

○元のティムカの小船

リュミエール 「わかりました。直ちにフリスビーと現場に向かいます、オスカー様」
オスカーの声 「奴らはざっと見積もって十五人てとこだろう。それでだ、リュミエール、お前さんにはスペシャルなパフォーマンスを用意するからな。詳しいことは後でな」
リュミエール 「(電話が切れ)スペシャルなパフォーマンス…」
ティムカ 「どうかしたんですか? 顔色が悪いですよ…」
リュミエール 「大丈夫です。さあフリスビー、大仕事ですよ。ティムカさん、御指導ありがとうございました」
ティムカ 「お二人ともお気をつけて」
ランディ 「はい。…ってそれこっちのセリフですよ! ティムカさん、命を狙われてるんですから。先輩どうするんですか?」
リュミエール 「そうですね。地元の警察にお願いしましょう。ティムカさんもこの船でできるだけじっとしていて下さい」
ティムカ 「わかりました。そうします」

○海上・釣り船

小型の釣り船に乗っているのは漁師姿のランディとオスカーのコンビ。
ランディは釣り糸を垂らし、オスカーは双眼鏡を覗いている。
双眼鏡の中にはさらに沖にいるハナフサ丸が写っている。
オスカー 「時間ぴったりだな。サラリーマンでも十分やっていけるだろうにバカな連中だぜ」
ランディ 「先輩、それよりも本当に俺でいいんですか? リュミエール先輩の方が『踏水術』、ほとんどマスターできているんですけど…」
オスカー 「心配するな。俺の作戦に狂いはない。…さあそろそろいいだろう。頼むぜ、フリスビー」
ランディ 「責任重大ですよね。弱音なんて吐いてる場合じゃないんだ。よーしこうなったら必殺技を使って…」
と海に入るや否や歌い出す。
ランディ 「♪となりのヤックザ、ヤックーザ。
 ヤックザ、ヤックーザ…」
と、リズム良くハナフサ丸の方角へ近付いていくのだ。

○海上・ハナフサ丸

船上にはウルフォードの部下数人が見張りに立っている。

○同・中

暗号通信を受信しているアル。
アル 「ボス、少し遅れそうだと言ってます」
ウルフォード 「10分以上遅れたら取引は中止だと言え! どうも嫌な気分だぜ…」

○海上・ハナフサ丸

近づいて来るクルーザーの音に気づく部下たち。
部下A 「ボス、来ました!」
船室から上がってくるウルフォード。
続いてアタッシュケースを持ったアル。
クルーザーにはアジア人らしき男が乗っている。
ハナフサ丸の横にクルーザーが停まると、ウルフォードだけがアタッシュケースを持って乗り移る。
    × × ×
『踏水術』には程遠く水しぶきを時々上げながら近付いて来るランディ。
見張りの男に気付かれてしまうのだ。
部下A 「おい、あそこに誰かいるぜ!」
水中に潜るランディ。
部下B 「魚か何かじゃねぇのか?」
部下A 「おかしいな…」
やがて息切れしたランディが浮かび上がってしまう。
騒ぎを聞きつけてやってくるアル。
アル 「くそっ、かぎつけやがったな」
と、拳銃でランディを狙う。
アルにならって部下達も拳銃を取出す。
潜ったり浮かんだりを繰り返し、辛うじて弾をよけながらハナフサ丸に近付こうとするランディ。

○ティムカの小船

眉間にしわを寄せているティムカ。
ティムカ 「…リュミエールさんはともかく、フリスビーさんは大丈夫だろうか…ああ…心配でたまらない…」
と、ついに立上がり、船を出港させるのだ。

○海上・クルーザー・中〜甲板

外の騒音に気付くウルフォード。
ウルフォード 「何だ。何をやってる!」
甲板に出て銃撃戦を見るや否や、
ウルフォード 「てめー、ハメやがったな!」
否定の仕草をする取引相手をいきなり撃ち殺すウルフォード。

○同・ハナフサ丸

アル達に撃たれかすり傷を負いながらも船の逆側に回り込んでよじ登ろうとしているランディ。
ランディ 「あともう少しだ…」
だが部下の一人に気付かれてしまう。
部下が手にした拳銃を怒りの瞳でにらむランディ。絶体絶命のその時に、一発の銃声が海に響き渡る。
ゆっくりと倒れたのはランディではなく、肩を撃たれた部下の方だった。
空を見上げるランディ、視線の先に現われたのは、パラセーリングをしているリュミエールだ!

○同・釣り船

オスカー 「(双眼鏡を外し)さすがはリュミエールだ。さて、俺もそろそろリップスティック賞戦線に名乗りを上げるとするか」
と、船をハナフサ丸に向かわせる。

○同・ティムカの小船

現場に到着し、パラセーリングしながらライフル銃で敵を狙い撃ちしているリュミエールを見上げているティムカ。
ティムカ 「リュミエールさん…やはりあなたの本来あるべき姿は、画家でもスイマーでもなく、刑事なんですね」

○同・ハナフサ丸

船上にもかかわらず宙返りなど軽い身のこなしでアル達相手に格闘しているランディ。そこへオスカーも颯爽と加わってくるのだ。
オスカー 「その分じゃ、調子は悪くはなさそうだな、フリスビー」
ランディ 「遅いじゃないですか!」
オスカー 「遅れてきておいしいところをかっさらうっていうのは本当は気が進まないんだがな」
ランディ 「進まなくてもお願いします。見た目よりずっとダメージ大きいんですから、こっちは」
オスカー 「じゃあ遠慮なく行くぜ!」
と、隣のクルーザー上のウルフォードと目が合う。
ウルフォード 「! オスカー、又お前か!」
オスカー 「(敵をやっつけながら)そうつれなくするなよ。俺に会えて泣いて喜ぶ女が何千人といるんだぜ」
やがて応援の警備艇が近付いて来る音が聞こえ始める。

○同・クルーザー

あわてて操縦室に戻り逃亡を謀るウルフォード。

○同・パラグライダー

みるみる沖へと進んでいくクルーザーを追っていくリュミエール。
リュミエール 「ここまで来て見逃すわけにはまいりません」
と狙いを定めるが沖は波が荒く、クルーザーの上下運動が激しい。
リュミエール 「あと少し…あと少しだけでも海が凪いで下されば…」
と、一瞬だけ時が止まったようにクルーザーの動きが滑らかになるのだ。
その瞬間を逃さず、操縦しているウルフォードの腕を打ち抜くリュミエール。
徐々に減速していくクルーザー。
リュミエール 「…奇跡、でも起こったのでしょうか…」
と、クルーザーから少し離れた海上にティムカの小船を発見する。
リュミエール 「ティムカさん、何故あなたがここに?…」

○同・ティムカの小船

船上で祈りを捧げるようなポーズをとっているティムカ。
ティムカの心の声 「海よ、ありがとうございます」

○地元の警察署・中

署長室から出て来るオスカー、リュミエール、ランディ。
リュミエール 「オスカー様、おめでとうございます。ウルフォード一味は長年の宿敵だったとか」
オスカー 「まあな。係長もリンボーダンスするくらい喜んでるだろうぜ。俺の頭とチームワークの勝利だな」
ランディ 「先輩、そのチームワークにはもちろん俺も入ってますよね」
オスカー 「ん? そうだなあ…」
と考え込むふりをするのをじれったそうに見ているランディ。そして静かに微笑んでいるリュミエール。

○同・表

パトカーを降りて走って来る地元の刑事サン。
サン 「リュミエール刑事! よかった、ここでお会いできて」
リュミエール 「何かあったのですか?」
サン 「例のティムカ少年を狙っていた男を捕えました。銃マニアの少年です」
リュミエール 「では特別彼を狙っていたわけではなかったのですか?」
サン 「いえそうではありません。彼に拳銃を与えて狙撃を依頼した人物がいたんです。
 丁度今連行してきたところなんですよ」
パトカーから降りてきたのは、リュミエールが以前海岸で話しかけた老婆だった!
    × × ×
リュミエールの回想。
老婆 「じゃがのう旅の方。いかんせんティムカは若すぎてな。鮪師としての腕を理不尽に嫉む輩も多いのです。なのでこうして船玉様の加護を祈らずにはおられんのです」
     と、手を合わせる。
    × × ×
 リュミエール    「まさか…まさかそんなはずは」
     と唇をかみしめ駆け出すのだ。

○港・ティムカの小船・中

決意の表情で船内を片付けているティムカ。
リュミエールの声 「お引越のご準備ですか」 
    振向くとリュミエールが刑事らしく毅然と立っている。 
ティムカ 「…どうか、見なかったことにしていただけませんか」
    × × ×
テーブルにはハーブティーが2つ供されている。
ティムカ
「(ハーブティーを一口飲み)どういうわけか僕は鮪師の才能を持って生まれてきました。努力で得られたものでもないそんなものは、ほめられるべきじゃないんじゃないでしょうか」
リュミエール 「そうかもしれません。私もかつては憎しみを覚えることがありました。己の持つ銃の才能に」
ハッとしてリュミエールを見つめるティムカ。
    × × ×
ティムカの回想。
パラセーリングしながら敵を次々と狙い撃つリュミエール。
    × × ×
ティムカ 「『かつては』ということは、今は憎んでいないと?」
 リュミエール    「ええ。ある時気付かされました。銃は憎んでも銃の才能は憎むべきではないと。大事なのはその生かし方だと悟ったんです、ティムカさん」
ティムカ     「『生かし方』…」
 リュミエール    「今日もそうでした。私の銃の力は作戦の中の1ピースにしかすぎません。
 フリスビーや他の刑事達との連係があってこそ私の力が生かされました。ですが、あなたの才能はまだ重要なピースとなってはいないのではありませんか?」
     顔をくもらせるティムカ。
リュミエール     「その証拠にあなたは自分に銃が向けられても逃げようとしなかった。まるで当たることを望んでいるかのように」
ティムカ     「そんな! 決して望んでいたわけではありません。ただ僕は…」
 リュミエール    「ただ何なのですか?」
 ティムカ    「僕を殺したいほど憎む人がもしいるのだとしたら、それは僕のせいだと感じていただけです」
 リュミエール    「自分のせいだから自分が消えればいいと?」
 ティムカ    「…ええ…」
     ティムカの表情が苦悩に歪んでいく。
 リュミエール  「ティムカさん、あなたはとんでもない間違いをおかしています。何故ならあなたの命を狙った方は、心からあなたを愛していた人だからです」
ティムカ     「えっ!? それは…」

○地元の警察署・取調室(リュミエールの回想)

老婆 「あの子のことは小さい頃からよう知っとります。子供なのに何か威厳を感じるような風情がありましてな。皆に『船玉様の子』と呼ばれるほど、海と相性のええ子でもありました。じゃが鮪師としての腕を上げれば上げるほど、あの子は周りの者から遠ざけられ一人ぼっちになっていきました。居場所がなかったのです、海以外では。私はそんなあの子を見るのがつらかった。生きる目的を日々見失っていくようなあの子を、何とかして止めたかったんです」

○元のティムカの小船・中(夕)

ティムカ 「それじゃあその方は僕の心を変えるために命を狙ったってことですか?」
大きくうなずくリュミエール。
リュミエール 「ええ。方法は決してよかったとは申し上げられません。けれどその方はこうおっしゃってました――『生命の危険にさらされれば生命について考え、もっと大切にしてくれると思った』と。そしてこうもおっしゃってました――『万が一にもあの子に弾が当たるはずはありません。だってあの子には船玉様がついてるんですよ』と」
ティムカ 「船玉様…(と顔を歪めて)リュミエールさん、僕の話を聞いていただけますか?」
リュミエール 「はい。どうぞ私に全て吐き出して下さい」
ティムカ 「こんな話信じてもらえるか…いえきっとあなたならわかって下さる気がします。リュミエールさん、あなたもどこか人を越えた所をお持ちですから」
リュミエール 「人を越えた所、ですか?」
ティムカ 「子供の頃から僕は何か人とは違うと感じることが多かった。最近は特に身体に対して年を重ねる感覚が、他の同世代の人に比べてとても遅い気がして仕方がないんですよ…」
リュミエール 「そうなのですか? 外見からはそれほどわかりませんが」
ティムカ 「ええだから厄介なんです。『感覚』と言いましたよね。たぶん僕にしかわからない、だけどすごく苦しい、いっそのこと身体ごと消えてしまえたら…そんな考えまで浮かんでくるんですよ」
リュミエール 「あなたの苦しみが本物だということはわかります。私も銃で相手を狙う時に、自分自身がターゲットのように思うことがありました。この弾が命中したら私自身も消えてくれたらと」
ティムカ 「あなたにもそんなつらい時が…救世主はやはり仲間ですか?」
リュミエール 「そうですね。ティムカさんにも現れたはずですよ。御自分が罪に問われることを承知で、あなたに生命の大切さを教えようとなさったあの方。私もそうです。私はあなたに出会う運命だったに違いありません」
と、窓から西日が差し、リュミエールの顔が赤く輝く。
リュミエール 「…夕焼けの海…今回はかないませんが、又いつかあの色彩を描くためにここへ来たいと思います」
ティムカ 「優しい色です。今日はいつもよりずっと…」

○七聖警察署・捜査課

1本の口紅をもてあそびつつオスカー、リュミエール、ランディそれぞれに視線を走らせているオリヴィエ係長。
オリヴィエ 「うーん、今回の係長賞は、リュミちゃんで決まりかと思ってたんだけどぉ、オスカーのパラセーリング作戦も侮れないしぃ、フリスビーも命懸けだったみたいだしねぇ、迷っちゃうわねー」
ランディ 「(立上がり)えっ俺も候補に入れて下さるんですか!」
オスカー 「よかったな。初ゲットのチャンス到来ってわけだ。ま、俺から見ても予想以上の働きぶりだったぜ」
ランディ 「ありがとうございます!」
穏やかな表情で絵ハガキを眺めているリュミエール。
夕焼けの海の写真の裏にはティムカからの便りが書かれている。
ティムカの声 「…僕は村に残ることに決めました。あなたに出会う前の僕は、十年後の自分の姿に怯えていたけれど、今は結果を決めないで、鮪師として母なる海とともに生きていこうと思っています…」
胸ポケットからおもむろにコインを取出すオリヴィエ係長。
オリヴィエ 「こうなったらオスカー仕込みのコレで決めるっきゃないわね。いい? 表ならリュミちゃん、裏ならオスカー、そんでまっすぐ立ったらフリスビーよ!」
ランディ 「そりゃないですよ!」
と、コインが投げられて――

(ティムカ編完・カティス編に続く)


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