聖地遙拝所10周年企画
 「夕食会 de ゴルゴンゾーラリゾット」


アンジェリーク 「そろそろ夕食会にしませんか?」
フランシス 「今日はどなたが作られるのでしょう?」
カティス 「俺だ。ワインに合うパーティ料理なんだ。期待していてくれ」
アリオス 「前回が『いかすみなんたら』だっただけに期待は高まらずにはいられないな」
アンジェリーク 「そ、そんな…『いかすみヌードル』もなかなかなものでしたよ」
カティス 「もちろんだ。いかすみは白ワインとの相性も抜群だからな。今日のメニューはどちらかと言えば濃厚な赤ワインをお奨めするがね」
アリオス 「なるほど。で、もちろん秘蔵のワインも持参というわけだな」
クラヴィス 「いや今日は私がサービスする。カティス特製『ゴルゴンゾーラリゾット』にぴったりな、この世に2本とないワインをな」
アンジェリーク 「ってことは…私が食べたいのは…つまり…『ゴルゴンゾーラリゾット』なんですね」
アリオス 「『この世に2本とない』のくだりはスルーした方がいいんだろうな」
フランシス 「私はクラヴィス様のこと、信頼申し上げております」
アンジェリーク 「大丈夫です! 女王の威信にかけて、死傷者は1人たりとも出させませんから!」
カティス 「おいおい…」
クラヴィス 「フッ、闇に染まりし者の運命であろうな…」
フランシス 「(クラヴィス様、たとえ私だけでもワインは飲み干してみせましょう)」
   × × ×
アンジェリーク 「うーん、このリゾット、かなりクセはあるけれど美味しいです。ところで『ゴルゴンゾーラ』って何かしら?」
フランシス 「確かブルーチーズの名前では? 語源までは詳しくわかりませんが」
カティス 「元々は村の名前なんだ。放牧していた牛が運ばれる際に休憩していた村で、牧夫が謝礼として提供した牛乳を村人がチーズにして売り出したんだな」
アリオス 「恋にうつつを抜かしたチーズ職人が、カビを生やしてブルーチーズができたという異説もあるらしいな」
アンジェリーク 「まあ、何てロマンティックなの〜」
クラヴィス 「カビもまた闇に染まりしもの、食べこなせる者は少なかろうな」
カティス 「俺などはまさにヤミ付きでな。ゴルゴンゾーラディップを常備しているくらいだ」
クラヴィス 「黒座布団を1枚やろう」
アンジェリーク
「(どうしたって会話が黒方向に向かってしまうわ…話を変えないといけないわね)アリオス…あなたは最近何にうつつを抜かしているの? もちろん恋以外でね」
アリオス 「『ゆるキャラ』だな。今攻撃力順にランク付けをしている」
フランシス 「(さすがな返しですね。元皇帝は伊達ではありませんね…)」
カティス 「そういえばその名もズバリ『チーズくん』と言う名のゆるキャラは知っているか?」
アリオス 「もちろんだ。彼の『うれしい時溶ける』という特技を侮ってはならない」
フランシス 「それは攻撃力が高いと解釈すればよろしいのですか?」
アリオス 「まあそうだな。但し『うれしい時』限定というのは引っかかるところではあるがな」
アンジェリーク 「あの、『チーズくん』ってきっと戦いは嫌いなんじゃ…」
クラヴィス 「そうとも限るまい。男である以上は、本能的に闘うものだ」
カティス 「そして闘いの後には酒を飲むものだ。杯を掲げよ! 勝者にはスパークリングワイン、敗者にはオーガニックワインを」
   × × ×
アンジェリーク 「デザートはいかが? 『ガウンを着たりんご』を作ってみたの」
アリオス 「ほう、なかなか粋なネーミングじゃねえか」
カティス 「俺たちもいかに上手く脱がせられるか、器量が問われそうだな」
アンジェリーク 「りんごを丸ごと紅茶リキュールで煮て、パイ生地を着せたお菓子よ」
フランシス 「これは焼きたてですね。芳醇な香りが漂っております。添えてあるバニラアイスにも陛下の細やかさが表れておりますね」
クラヴィス 「おそらく、ロザリアの入れ知恵ではあろうがな…」
アンジェリーク 「(クラヴィスったら、当たってるだけ余計悔しいわ)さあ、召し上がって」
アリオス 「ええい面倒だ! こんなガウンなんぞはゼロブレイクで一刀両断だぜ」
アンジェリーク 「ゼロブレイク…転生してもしつこく覚えていたのね」
クラヴィス 「ならば私は…はて、私の特技は何であったろうか」
カティス 「お前の特技なら、瞬時に眠ることだろう」
アンジェリーク 「ダメよ、クラヴィス! その状態で眠ったら顔中パイだらけよ」
フランシス 「顔中リゾットよりはダメージは少ないかもしれませんが、今夜のところは私に免じてお戯れはほどほどにお願い致します」
クラヴィス 「そうだな。やるならジュリアスがいる時の方が面白かろう」
   × × ×
アンジェリーク 「今夜は随分ワインをいただいたけど、皆さん上品なメンバーでよかったです」
カティス 「陛下もお戯れがすぎますな。誰もまだワインなど飲んではいないのだよ」
アンジェリーク 「ええっ!! じゃ、じゃあ今飲んでいるこのグラスの中身って…」
フランシス 「私も、女王陛下と同じくワインのつもりで飲んでおりましたが…」
アリオス 「(こいつらマジかよ…)色やニオイは確かに赤ワイン風ではあるが、これは紛れもない健康飲料『紅酢』だな」
クラヴィス 「フッ、見事なまでにかかったな、私の術に」
フランシス 「確かに多少の酸っぱさは感じておりましたが、クラヴィス様独自のアレンジかと…」
カティス 「陛下がほろ酔いなのは『紅茶リキュール』のせいではないのかな?」
アンジェリーク 「あら! そういえば、キッチンで少しだけ味見をするつもりが気がついたらペロリと…」
アリオス 「丸ごと試食かよ! あきれたものだな」
アンジェリーク 「(あっこのままだと女王の威厳がないまま夕食会が終わってしまうわ。微笑まなくっちゃ! 月の女神アルテミスの如くに)」
カティス 「良い笑顔だ。陛下のその妖しい微笑みこそガウンでくるまなきゃ危険だな」
アンジェリーク 「(やったわ! これでカティス様との友好度は急上昇間違いなしね♪)」
カティス 「陛下。この後、いいだろうか?」
アンジェリーク 「えっ、ええと…」
カティス 「とっておきの酔い覚ましの方法を伝授して差し上げたいのでね」
アンジェリーク 「わかりました、お待ちしてます」
   × × ×
カティス 「こんな夜更けにすまなかったね…」
アンジェリーク 「いいえ、来てくださってとっても嬉しいです。カティス様と一度じっくりお話したかったですし」
カティス 「そう言ってくれるお嬢さんたちはわりと多いんだけどね…」
アンジェリーク 「けど??」
カティス 「どうやら私の話っぷりは少々回りくどいようだ。さて、それよりも酔い覚ましのスペシャルグッズなんだが」
アンジェリーク 「何?…まあ素敵な手鏡!」
カティス
「そう、手鏡にしか見えないだろう。ところが、この持ち手の部分を外すと中からキュートな肉球が出てくる仕組みになっているんだ」
アンジェリーク 「肉球?」
カティス 「そう、今からこの肉球を使い、私が酔い覚ましのツボを押して差し上げよう」
アンジェリーク 「あの、カティス様…そのツボって一体どのあたりに?」
カティス 「それは色々試してみなければわからないだろう?」
アンジェリーク 「(なるほどー、確かに回りくどいかも。私の方から恋のツボ、一気押ししちゃおうかしら!)」
(おわり)

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