クリスマス企画
 「夕食会 de いかすみヌードル」


アンジェリーク 「そろそろ夕食会にしませんか?」
カティス 「今日は誰が作るんだ?」
クラヴィス 「私だ。作る、というほどでもないものだが」
フランシス 「本日は聖なる日。一切れのパンでも祈りを捧げるべきものさえあればかまいません」
アリオス 「(闇の守護聖が二人揃うとこうもテンションが下がるものかね…)」
アンジェリーク 「そ、そうですね…」
カティス
「そこの二人、このお嬢ちゃんの困った顔を見てみろよ。せっかくのクリスマスなんだ。
 さあ俺はそれなりにちゃんとこうしてワインを持ってきたからな。お嬢ちゃん好みの甘口だ」
アリオス 「甘口だと。できれば俺には他のワインを頼みたいものだが」
カティス 「そう言わずに飲んでみろよ。転生より衝撃的な味かもしれないぜ」
クラヴィス
「ではとりあえず湯を沸かしてこよう。『いかすみヌードル』に必要なのは熱湯と、私が調合したスパイス、それだけだ」
アンジェリーク 「ってことは…私が食べたいのは…つまり…『いかすみヌードル』なんですね」
アリオス 「『私が調合したスパイス』とやらの成分は聞かない方がいいんだろうな」
フランシス 「私はクラヴィス様のこと、信頼申し上げております」
アンジェリーク
「そうだわ! 皆でスパイスの中身を当てるゲームをしたらどうかしら?
 賞品はカティス様秘蔵のワインをもう1瓶追加ってことで」
カティス 「おいおい、いくらクリスマスだからってそこまで大盤振る舞いはできないぜ」
クラヴィス 「残念だがそれは無理だ。正解を思い出せない…」
フランシス 「(夕食会が終わるまでにクラヴィス様への信頼が揺るがなければよいのですが)」

  × × ×

フランシス 「実は私は『いかすみ』自体初めて食したのですが、美味しいものですね」
カティス 「ワインとの相性もいいな」
アリオス 「このスパイスも、正体不明な割にはイケテルぜ」
クラヴィス 「黒は闇、恐怖、絶望などのイメージに連なっているが、いかすみだけはプラスの要素をもっているようだ」
アンジェリーク
「(会話が真っ黒い方向に向かっているわ…話を変えないといけないわね)
 あの、クラヴィス…小さい頃はクリスマスはどんな風に過ごしていたの?」
クラヴィス 「…ただ、星を見ていた」
カティス 「ジュリアスも一緒にな」
フランシス 「昔は、お二人は仲がよろしかったのですね」
アリオス 「今だっていいだろう…『けんかするほど仲がいい』と言うじゃないか」
クラヴィス 「フッ、もはやアレとはけんかにもなるまい」
フランシス 「そうですね。私も、レオナードとは人間同士の会話になりません」
アンジェリーク 「光と闇は決して交わることはないけど、離れることもできない…厄介よね」
カティス
「その厄介なとこが俺にはたまらない魅力だったのさ。フランシス、お前さんもすぐにそういう境地になることだろうよ。『闇だからこそ光の恵みを求めたのだ』ってな」
アリオス 「(こいつらヌードルをズルズルしながらよくこんな高尚な話ができるな…)」

   × × ×

アンジェリーク 「デザートはいかが? 『ブッシュド・ノエル』を作ってみたの」
アリオス 「やっと腹にたまるものが出てきたな」
カティス 「クリスマス定番のケーキだ、ずいぶんと手間ひまがかかったろう」
アンジェリーク 「ええ、ロザリアにも少し手伝ってもらって。彼女は本当に有能な補佐官ですわ」
カティス 「なるほど、この木の模様の繊細さはまさしくロザリアらしい」
フランシス 「お二人の手作りとなれば、心していただかないと」
クラヴィス 「…そうだな。闇のサクリアを持つ我らとしても、な…」
アンジェリーク 「それはどういうことなの? クラヴィス」
フランシス 「そう言われますと、このケーキの形は薪、薪は燃える、燃えるは光!!」
アリオス 「小学生か!」
アンジェリーク 「あのう…どのくらい切り分けたらいいかしら?」
フランシス 「(目を光らせ)それはもう、たっぷりと。薪と言わず、大木のように」
クラヴィス 「(フランシスよりもさらに眼光鋭く)右に同じく」
アンジェリーク 「(なんでこんな殺気立ってるの??)」
カティス 「やはりこの二人はクリスマス以外の食事会に呼んだ方がよさそうだ」
アリオス 「全くだ、『闇だからこそ光のケーキをやけ食い』だな」
アンジェリーク 「きっと、よほどおいしいか、それともお腹がすいてたのね」

   × × ×

アンジェリーク 「突然だけど、せっかくのクリスマスだから最後は皆さんにプレゼントしたいの」
カティス
「プレゼントなら、ゴージャスな手作りケーキにお嬢ちゃんのとびっきりの笑顔まで十二分にもらっているのに、まだあるのか?」
アリオス 「酒の回り過ぎだぜ」
アンジェリーク 「ええ、これも私手作りの『おみくじ』よ♪」
フランシス 「クリスマスに『おみくじ』、ですか…女王陛下は噂通りサプライズな方ですね」
アンジェリーク 「さあ、誰から引いてみる? シャッシャッシャッ…どう? アリオス」
アリオス
「(なんで俺なんだ…)しょうがないな、女王陛下の御指名とあらば…悪いな、しょっぱなから『大吉』を引いてしまった」
アンジェリーク 「ザーンネーン! 『大吉』が一番下なのよ。『大大大大吉』まであるから」
フランシス 「ますますもってサプライズな」
カティス 「では次は俺が引こう…同じく『大吉』だな。ありがたい、明日もいい酒が飲めそうだ」
クラヴィス 「『大大大大吉』を引けば、どうなるというのだ?」
アンジェリーク 「あら! そんなこと考えてもみなかったわ」
フランシス 「陛下、お手をどうぞ。良いお薬を差し上げましょう」
アリオス 「(手遅れだろう)さてと、もうお腹いっぱいだぜ、天使のいたずらも含めてな」
アンジェリーク 「(あっこのままだと夕食会が終わってしまうわ。微笑まなくっちゃ! 天使のように可憐にね)」
クラヴィス 「どうした、そんなにその黒い歯を見せたいのか?」
アンジェリーク 「(そうだった! 今夜はいかすみを食べたんだったわ!)」
カティス 「俺には、そんなお歯黒お嬢ちゃんも魅力にあふれているさ」
アリオス 「だから飲み過ぎだと言ってる。さあパーティはこれで終わりだ」
クラヴィス 「陛下、いやアンジェリーク。この後、いいだろうか?」
アンジェリーク 「えっ、ええと…」
クラヴィス 「私からもプレゼントしたいものがある」
アンジェリーク 「わかりました、お待ちしてます」
クラヴィス 「できれば、歯を磨いておいてくれ」

   × × ×

クラヴィス 「こんな夜更けにすまぬ…」
アンジェリーク 「いいえ、来てくださってとっても嬉しいです。今はクラヴィス様とお呼びしていいんですよね?」
クラヴィス 「かまわぬ。夜なればこそ、立場を忘れて話せよう。お前はどうだ?」
アンジェリーク 「ええ。それにその…クリスマスの夜なんですものね」
クラヴィス 「プレゼントというのは他でもない、これだ」
アンジェリーク 「何かしら?…これってまさかあの!」
クラヴィス 「そうだ、いつか話したであろう、幼き頃私が拾った流れ星のかけらだ」
アンジェリーク 「そんな大切なものを私に?」
クラヴィス 「アンジェリークだから、持っていてもらいたいのだ」
アンジェリーク 「クラヴィス様…」
クラヴィス 「…『早く忘れることだ』…そう言った張本人がいつまでも未練がましいものだな」
アンジェリーク 「うれしい…今夜は、私が『大大大大吉』です!」
(夕食会 de いかすみヌードル おわり)

すばる劇場へ