聖地遙拝所9周年記念
 「夕食会 de 鴨肉のソテー・トリュフソース」


アンジェリーク 「そろそろ夕食会にしませんか?」
リュミエール 「今日はどなたが作られるのでしょう?」
ジュリアス 「私だ。前回のようなアクシデントのない料理を用意した」
ゼフェル 「しつけー奴だなっ」
ジュリアス 「ところで、夕食会メンバーが前回とただの1人も変動がないようだが」
リュミエール 「はい、一応クラヴィス様にもお声はおかけしたのですが…」
ルヴァ 「クラヴィスは普段から小食ですからねえ、食べ慣れぬものは遠慮したいでしょう」
ゼフェル 「エネルギー消費量がとことんすくねーからな、アイツは。その上約1名、煮ても焼いてもタバスコかけても食えねえ奴もいるみてーだしなっ」
ジュリアス 「では何故ゼフェルがこの場にいるのかはいずれ究明するとして、とりあえず『鴨肉のソテー トリュフソース』をふるまうことにしよう」
アンジェリーク 「ってことは…私が食べたいのは…つまり…『鴨肉のソテー』なんですね」
ジュリアス 「『鴨肉のソテー トリュフソース』だ。アンジェリークはトリュフは好まぬか?」
アンジェリーク 「い、いえそんなことは決して。(トリュフってよく名前は聞くけど何??)」
ルヴァ 「(小声で)あー、トリュフというのはですねー、キノコの1種で『黒いダイヤ』とも呼ばれるほどの高級食材なんですよー」
アンジェリーク 「『黒いダイヤ』だなんて私の歯で噛めるのでしょうか…」
リュミエール 「大丈夫ですよ。トリュフソースなのですから固形ではありませんから」
ゼフェル 「早速食欲が落っこちる単語使ってくれんじゃねーかよ」
リュミエール 「申し訳ありません。『ごつごつ』の方がよろしかったでしょうか?」
 × × ×
リュミエール 「ジュリアス様、先ほどからフルートの音色がかすかに聞こえますが…」
ジュリアス 「うむ。さすがはリュミエールだ。私はかねがねフレンチにはフルート曲のBGMが最も似合うと確信しているのだ」
ゼフェル 「けっ、あいにくオレはめしは口だけで食うタイプだから耳は休憩中だぜ」
ルヴァ 「ゼフェル! 本当に少しは『成長』して下さらないとトリュフのようにみじん切りにされてしまいますよ」
アンジェリーク
「(会話が恐ろしい方向に向かっているわ…話を戻さないといけないわね)
 あの、ジュリアス様…このBGMはどなたの曲なんですか?」
ジュリアス 「フランツ・ドップラーの『ハンガリー田園幻想曲』と申すのだ。フルート曲としてはポピュラーな方ではないかと思うのだが」
アンジェリーク 「ドップラー、聞いたことがあります。確か何人もいるんですよね?」
ゼフェル 「それはドップラーじゃなくてドッペルゲンガーだろーが」
リュミエール 「ドッペルゲンガー! そういえば私のお皿には鴨肉の横に何かが!?」
ジュリアス 「それは付け合わせの蕪だ」
アンジェリーク 「ごめんなさい、私がすっとこ発言をしたばっかりに」
リュミエール 「どうぞお気になさらずに。それよりもこの蕪をほおばってごらんなさい! 
 絶妙な硬度、いえ『しゃきしゃき』です」
ルヴァ 「本当ですね! ほらごらんなさい、ゼフェル。耳を働かせないと、おいしくいただけないこともあるのですよー(ポリポリポリ)」
ゼフェル 「しゃーねーなー、今日ばかりはルヴァの顔を立ててやっか(ポリポリポリポリ…)」
アンジェリーク 「(お2人とも少し音を立て過ぎじゃないかしら…)」
ジュリアス 「静かに食べぬか!! BGMがかき消えておる!」
ルヴァ 「いけません、これでは『ハングリー天然喧噪曲』ですねー、うんうん」
 × × ×
アンジェリーク 「デザートはいかが? 『シンギング・ヒニー』っていうパンケーキを作ってみたの」
ルヴァ 「おやおや、可愛らしくておいしそうじゃありませんか」
ゼフェル 「どうせあめーんだろっ」
アンジェリーク 「ちゃんとゼフェル様のは甘さを控えめにしてありますよ」
ゼフェル 「そうなのか? わりーな」
ジュリアス 「(ゼフェルだけ特別とは、アンジェリーク、まさか)
 ところで『シンギング』とはつまり『歌っている』ということなのだろうか?」
アンジェリーク 「さすがはジュリアス様! このお菓子の名前は生地をフライパンで焼く時に色々な音が出るのを、小人が歌っているようだってことからきているんです」
リュミエール 「それでは『ヒニー』というのは?」
アンジェリーク 「えっと、それは…何でしたっけか…」
リュミエール 「ふふふ、ド忘れされたのですか?」
ルヴァ 「そうですねー、『ヒニー』は説明が難しいですけど、まあ『ハニー』と同じように愛情を込めて呼びかける言葉といえばいいでしょうかねー、うんうん」
ジュリアス
「(あ、愛情を込めて、誰に呼びかけるというのだ??
 会の始めよりゼフェルがいることが不可解であったが、まさかアンジェリークがあやつを誘ったのか!?) うぐぐぐぐ…」
ルヴァ
「ジュリアス! 今日は何がひっかっかったのですか!? 
まさかレーズンですか?」
ゼフェル 「なんでそんなもんがひっかかんだよ!」
リュミエール 「とにかくお水をお飲みになって下さい、ジュリアス様」
ジュリアス 「うっ、リュミエール、み、水をデカンタから直に注ぐでない! ぶくぶくぶく…」
ゼフェル 「ったく、静かにしてもらいてーな。BGMが聞こえやしねーぜ」
 × × ×
アンジェリーク 「ジュリアス様、先ほどはすみませんでした。デザートがお口に合いませんでしたね」
ジュリアス 「いや、そうではない。少し考え事をしてしまっただけなのだ」
アンジェリーク 「(ジュリアス様は、お食事中でさえ執務のことを考えていらっしゃるのね)」
ゼフェル 「いったい全体何煮詰まってたっていうんだ?」
ルヴァ 「ゼフェル! 夕食が『トリュフソース』だっただけに、上手く言ってみたのですねー」
ゼフェル 「なわけねーだろーが」
リュミエール 「そうですね。ジュリアス様のソースは決して煮詰まってはいませんでしたし。本当に久々に舌鼓をぽんぽんと打たせていただきました」
アンジェリーク 「(あっこのままだと夕食会が終わってしまうわ。今夜こそ誰かにほほえまなきゃ!)」
ジュリアス 「(…何やらアンジェリークが私にアクションしているようだが)いかがした?」
アンジェリーク 「ジュリアス様、今夜は素晴らしいお料理ありがとうございます!(にっこり)」
ジュリアス 「何よりの言葉だ。毎回というわけにはまいらぬが、またこのような機会を作るとしよう」
アンジェリーク 「はい! (ついでにお隣のリュミエール様にも目配せしちゃおっと)」
リュミエール 「『ぽんぽん』…舌鼓は『ぽんぽん』でよかったでしょうか、それとも『ぽこぽこ』?」
ルヴァ 「今夜はフレンチでしたから『ボンジュールボンジュール』でいいんじゃありませんか?」
アンジェリーク 「(リュミエール様、私の目配せ、気づかれなかったみたいね…)」
ジュリアス 「アンジェリーク。この後、よいだろうか? 少し話がしたいのだが」
アンジェリーク 「えっ、ええと…」
ジュリアス 「もしかして他の誰かと約束でもあるのだろうか?」
アンジェリーク 「な、ないです。(ただ部屋を片付ける時間がいるわよね…)」
 × × ×
ジュリアス 「こんな夜更けに迷惑だったであろうか…」
アンジェリーク 「いいえ、来てくださってとっても嬉しいです。(おかげで部屋も片付いたし♪)」
ジュリアス 「そうか…(はて、何がそんなに嬉しいのであろうか??)」
アンジェリーク 「それであの…ジュリアス様のお話というのは?」
ジュリアス 「そう、『シンギング・ヒニー』、特に『ヒニー』の件なのだが」
アンジェリーク 「『ヒニー』の件?」
ジュリアス
「そうだ、その何と言うか、その、菓子の焼ける音が本当に歌声に聞こえるものかと…
 (何を混乱しておるのだ、私は!)」
アンジェリーク 「あのーそれじゃあ、明日にでも一緒に作ってみますか?」
ジュリアス 「アンジェリーク!!」
アンジェリーク 「すみません!! つい…ジュリアス様はお忙しくて、そんな時間はありませんでしたよね」
ジュリアス 「…そうだな、明日は忙しかろう。そなたとて女王候補としてやるべきことは多いはず。だが、いずれそのような時間ができないとも言い切れぬであろう。(ゼフェルの件は今夜のところは保留にしておくとしようか)」

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