夕食会 de 明石焼

アンジェリーク		「そろそろ夕食会にしませんか？」
エルンスト		「今日の当番は当然チャーリーになるわけですね」
チャーリー		「あったりい～めちゃめちゃ気合入れて作ったるでえ」
セイラン		「その気合とやらが空回りしないことを祈ってるよ」
ヴィクトール		「宇宙一の美食家の手料理、楽しみだな」
アンジェリーク		「（チャーリーさんの手料理って、遊び心がありそうだけど、それがちょっと心配でもあるわよね…）」
チャーリー		「あんた、えらい晴れのち雨のちどろソース！みたいな複雑な顔してるなあ。　それでも十分カワイイんやけど」
セイラン		「『どろソース』なんて言ってるところをみたらひねりもなく『たこ焼き』かい」
チャーリー		「セイランはん、そこはちっとはひねってますがな。『たこ焼き』の兄弟分、御存知『明石焼』ですわ」
アンジェリーク		「ってことは…私が食べたいのは…つまり…『明石焼』なんですね」
エルンスト		「『明石焼』ならば確かだし汁に漬けるタイプですから『どろソース』は不必要なのでは？」
ヴィクトール		「やけに詳しいんだな。ひょっとしたら『明石焼』も健康食なのか？」
エルンスト		「そうですね。卵アレルギーでなければ」
セイラン		「知ってたかい？　僕は実は学者アレルギーなのさ」
ヴィクトール		「おいおい、のっけからそうからまないでくれよ。飯は仲良く食うもんだ」
チャーリー		「せやせや。俺の渾身の作品を食べてもろたらみーんな腹の底から笑えるでー」
アンジェリーク		「笑える？　何だか今夜も何か起こりそう！」
		×　×　×
アンジェリーク		「まあ～そのキラキラしたものは何ですか？」
チャーリー		「ジャーン！　もちのろん、マイ高級銅製明石焼器ですがな。ちなみに回転焼器とセットで売ってますんでごひいきに」
エルンスト		「見事な機能美です！　私にも詳しく見せていただけますか？」
セイラン		「これだから学者は…。食べた後じゃダメなのかい？」
ヴィクトール		「そうだぞエルンスト。俺たちも決して暇というわけじゃないんだ」
チャーリー		「わっかりました。エルンストさんにはあとでコレ、10個ほど送りますさかい」
エルンスト		「10個ということは…回転焼器も入れると20個！　それは困ります」
アンジェリーク		「（会話が不毛な方向に向かっているわ…話を変えないといけないわね）チャーリーさん、この生地の中身はどんな材料なんですか？　卵以外では」
チャーリー		「小麦粉、ジン粉、までは教えられるけど、あとは門外不出なんやー」
ヴィクトール		「門外不出か…そういえば昔王立派遣軍で虹色の豆スープという門外不出品の噂があったよ」
エルンスト		「虹色ということは…赤、橙、黄、緑…」
セイラン		「それはたぶん食べ物じゃない可能性が高いね。どちらかといえば、必殺の武器に近いんじゃない」
アンジェリーク		「そうですか？　私は食欲をそそられますけど。あらお腹が鳴ってる」
チャーリー		「今夜はこの明石焼の焼き色でそそられてやー、ほーら香ばしい匂いもしてきたやろう？」
エルンスト		「では私はこちらのだし汁の等分配布をお手伝い致しましょう。マイビーカーで」
ヴィクトール		「おい、そのビーカー大丈夫なのか？？」
エルンスト		「もちろんです。正確さは保証致します」
セイラン		「…いよいよアレルギーが発動しそうだ」
アンジェリーク		「それじゃあ私は『どろソース』をマイ計量スプーンで等分に…」
チャーリー		「いらんいらん、適当でええんや。ええか、こうして『どろソース』をちゃちゃっとはけで塗ってからだし汁に漬けるっちゅうんが俺流なんや～」
ヴィクトール		「ソースなしの方がいいような気もするが…」
セイラン		「そう、シンプルなのが一番だよ」
アンジェリーク		「ちゃちゃっと塗って…本当、チャーリーさん、こうするとすごくおいしいですっ」
セイラン		「なるほど、常識をいとも簡単にくつがえす、君は女王に向いているみたいだね」
		×　×　×
アンジェリーク		「デザートはいかが？　『道化師』を作ってみたの」
チャーリー		「『道化師』、なんや意味深やなあ～」
エルンスト		「該当者はチャーリーだけのように思われますが…」
アンジェリーク		「そんな！…別に深い意味なんてないですよ。ケーキのデザインが道化師の衣裳に似ているってことで付けられた名前みたいなんです」
セイラン		「格子模様は定番中の定番だからね。色のセンス、悪くないよ」
エルンスト		「鮮やかな赤と橙のコラボレーションですね」
アンジェリーク		「ありがとうございます。赤は木いちご、橙はマンゴーなんですよ」
ヴィクトール		「マンゴーの香りが強烈だな」
チャーリー		「あれ、マンゴーってひょっとしたら？」
アンジェリーク		「ええ、チャーリーさんから分けていただいたあのマンゴーです。あんまり美味しかったので皆さんにも食べていただこうと思って」
セイラン		「僕としてはこの美しさを崩すのにはいささか抵抗があるが仕方がないね」
ヴィクトール		「マンゴーは食べごろが難しいと聞いたことがあるが、これは完璧じゃないか！」
エルンスト		「そうですね。糖度が17、いや18はあるのではないでしょうか」
チャーリー		「気のせいか俺があげた時より甘なっとんとちゃう？」
アンジェリーク		「ほんの少しだけ砂糖は足しましたけど、でもマンゴーの甘さが利いているんですよ♪」
チャーリー		「アンジェリークゆーたら真面目に返して。ここは『恋の魔法で甘くなってるの』とかなんとか言うとこやんか」
アンジェリーク		「（あ、しまった）」
		×　×　×
アンジェリーク		「チャーリーさん、今夜はごちそうさまでした。明石焼を作りすぎて、腕がだるいんじゃありませんか？」
ヴィクトール		「それなら俺がマッサージをしてやってもいいぞ」
チャーリー		「へーきへーき。慣れてますよって。それより今夜の明石焼の中に『アタリ』と『ハズレ』があったんですけど、誰かわからはりました？」
セイラン		「やっぱりね。チャーリーのことだから、何か仕掛けがあると覚悟はしていたよ」
アンジェリーク		「もしかしたら、私かもしれません。ひとつだけ何だかタコの味じゃないような気がしたんです」
チャーリー		「それそれ、で、感想は？」
アンジェリーク		「タコよりももっとふわっと柔らかくて、甘辛い味がしたような…」
チャーリー		「それが焼き穴子！　つまりは『アタリ』焼やがなー、おめでとうさん」
ヴィクトール		「焼き穴子か。俺も食べたかったなあ、残念だよ」
セイラン		「で、『ハズレ』は何が入っていたんだい？」
エルンスト		「まさか食品以外ではないでしょうね」
チャーリー		「さあ、どないでっしゃろ」
セイラン		「『ハズレ』かどうかは各自の感性次第じゃないかな。僕が食べた中にどうやら梅干しがあったようだね。ほとんどが種のね」
チャーリー		「なんやセイランさんやったんですか、道理で盛り上がらんかったわけや」
エルンスト		「梅干しなら健康食ですから『アタリ』とも言えるでしょう」
ヴィクトール		「次回はそれぞれが『アタリ』具材を持ち寄るのもいいかもしれんぞ」
アンジェリーク		「（あっこのままだと夕食会が終わってしまうわ。ほほえまなくっちゃ！）」
チャーリー		「アンジェリーク、もしかして何かええ具材思いついたん？」
アンジェリーク		「えっと…そうじゃなくて…」
ヴィクトール		「俺はそうだなあ、幻の虹色の豆を探し出して…」
セイラン		「正真正銘の『ハズレ』具材だろうね」
エルンスト		「サプリメントではいかがでしょうか？」
セイラン		「ハ・ズ・レ…さあ僕はもうこのあたりで失礼させてもらうよ」
チャーリー		「アンジェリーク。この後、ちょっとええかな？」
アンジェリーク		「えっ、ええと…」
チャーリー		「そない心配せんでも一瞬で帰るさかいに」
アンジェリーク		「どうぞ、お待ちしてます」
		×　×　×
チャーリー		「悪かったな、こんな夜遅うに」
アンジェリーク		「いいえ、来てくださってとっても嬉しいです」
チャーリー		「いやー、やっぱり運命感じたわー。あんたが焼き穴子を食べてくれるなんて」
アンジェリーク		「そうですよね。チャーリーさんの自信作、美味しかったです♪」
チャーリー		「ほんでなあ…穴子のあなことばは『奥深い愛』て言うらしいで」
アンジェリーク		「（あなことば？？、もはや花言葉ですらないはずなのにこの説得力ったら！）」
チャーリー		「よかったら俺からのプレゼント、受取ってくれるかなあ。はい」
アンジェリーク		「（…ただのコップにしか見えないんだけど）」
チャーリー		「今俺の心のコップにはだし汁が半分ちょっとかなあ。せやから思いっきり揺れてしまうんや。けどそのだし汁がコップ一杯になったらどうなると思う？」
アンジェリーク		「一杯になったら…そうなったらもう揺れたりしませんね」
チャーリー		「あんた、ようわかってくれてるなあ。そのコップで俺のことたまーに思い出してくれたらめっちゃうれしいんやけど」
アンジェリーク		「（私のコップもきっとすぐ一杯になりそうね。だし汁じゃなくて、もう少しロマンティックなものがいいけど）」

（おわり）