フランシスバースデイ企画
 「夕食会 de 参鶏湯」


アンジェリーク 「そろそろ夕食会にしませんか?」
アリオス 「今日は誰が作るんだ?」
フランシス 「私です。サイコセラピスト一押しの薬膳料理を御用意致しております」
カティス 「薬膳料理か。俺は薬酒で十分なんだが、クラヴィスにはお薦めかもしれんな」
フランシス 「ええ、是非召し上がっていただき、感想などお聞かせいただけたらと」
クラヴィス 「…フッ、面倒なことだな。だがあえて言おう、私にはビタミンDが足りていない」
アリオス 「だろうな。執務室のカーテンを開けたら済むんじゃねーか?」
フランシス 「それができれば苦労はありません。クラヴィス様も私も闇に関わる者なのですから」
アンジェリーク 「あのもしよければ、週1でカーテンを開けてもらっても…」
カティス 「お嬢ちゃん、優しい心遣いだがジュリアスの許可をとった方がいいぞ…」
フランシス 「とりあえず今夜は『参鶏湯』をじっくりとお楽しみ下さい」
アンジェリーク 「ってことは…私が食べたいのは…つまり…『参鶏湯』なんですね」
クラヴィス 「『料理は手間ひまかけた分旨味を増す』と聞く。その答が得られような」
アンジェリーク 「(そう言えばクラヴィスは『いかすみヌードル』用の熱湯を沸かしただけだったっけ)」
   × × ×
フランシス
「まずは御説明致しましょう。『参鶏湯』は字にもありますように、脂の少ない雛鶏のお腹の中に、高麗人参、にんにく、ナツメなど薬効高い具を入れて煮る鍋料理です」
アリオス 「強烈なニオイがしそうだな」
カティス 「俺はある意味ニオイフェチなんだ。だからニオイよりも見た目の方が気になるな」
アンジェリーク 「見た目? まさか、雛鶏のまんま出てくるってことは〜」
フランシス 「御安心下さい、女王陛下には取り分けた後のものをお出し致しますから」
クラヴィス 「つくづく手間ひまがかかるようだな」
カティス 「フランシス、『参鶏湯』にはどんなワインが合うだろうか?」
フランシス 「そうですね、オーソドックスなのは白、でしょうか。私は薬草系ワインも試してみたり致しますが」
アリオス 「酒まで薬草だと? お前、病み過ぎだろ!」
クラヴィス 「『闇』だけにな、フッ」
アンジェリーク
「(今のは聞かなかったことにしましょう…話を変えないといけないわね)
 フランシス…このスープを飲んだらお肌もツルッツルになるかしら?」
フランシス 「もちろんです。時と場合によってはプルップルになるやもしれません」
アンジェリーク 「まあプルップルになるの!?」
アリオス 「意味わかって言ってるのか、それ?」
フランシス 「アリオス、女王陛下に対して失礼ではありませんか?」
カティス 「俺の見たところ、お嬢ちゃんは肌よりも心の方が『プルプル』しているように思うんだがね」
アンジェリーク 「やだ、カティス様ってば…」
クラヴィス 「闇の心に支配される我らには、縁薄い言葉だな、フランシス」
フランシス 「(そうでしょうか…私にはクラヴィス様の『プルプル』したお姿は容易に想像できますが)」
   × × ×
アンジェリーク 「デザートはいかが? 『豆腐花』を作ってみたの、もちろん豆乳からね」
アリオス 「フランシス同様、手間ひまかけたじゃねえか」
カティス 「これは驚いた、デザートまで『プルプル』系だったとはな」
アンジェリーク
「本当に。偶然ってあるのねー。今夜は、少し暖かい状態で食べてみて下さいね。その方が風味が感じられると思うの」
フランシス 「これは美味しい…陛下のお優しい御心が身体中に染み渡ってまいります」
クラヴィス 「この横の付け合わせは?」
アンジェリーク 「それはトッピングにと思って、ザラメとかクコの実をあしらってみたの」
クラヴィス 「クコの実は目の疲れに効くと聞いたことがある。試してみてもよかろうな」
アンジェリーク 「目の疲れ…暗い所で執務してるから??」
アリオス 「だからカーテンを開けろと…」
カティス 「フランシス、お前さんもトッピングしたらいいんじゃないか、クコの実」
フランシス
「お気遣いありがとうございます。(ただ私の場合、目の疲れの原因は執務というよりも、金の髪のレディを狂おしいほどに見つめるが故、なのでしょうが)」
   × × ×
アンジェリーク 「せっかくだから今夜はフランシスに心理テストでもしてもらいたいわ」
カティス 「サイコセラピストの科学的根拠に基づいた心理テスト、面白そうだな」
アンジェリーク 「あらそんなにがっつりしたのでなくていいのよ…」
フランシス 「女王陛下のお望みとあれば、そうですねー、ではごく簡単な質問をさせていただきます」
アリオス 「ったく、付き合い切れねえな」
クラヴィス 「四つ葉のクローバーが好きだったがな、お前は」
アリオス 「おいっ! あれはその〜単なる研究対象だ、それ以上でも以下でもない」
アンジェリーク 「(アリオスったらあたふたして、カワイイ)」
フランシス

「それでは皆様に質問を致します。お手元のワイン、失礼、陛下はジャスミン茶ですが、その中のたった一つにあらかじめ『透明人間になる妙薬』が入っていたとしたら、それはどなたのだと思われますか?」
カティス
「それならもちろん俺のだな。透明人間になったら普段できないで我慢していることがかなりの確率でできるからな、ははは」
アリオス 「そんな危険なマネはさせられないぜ。だとしたら俺の答はカティス以外ってことにするぜ」
クラヴィス 「私は彼の者以外思いつかないようだ。『気詰まり』を具現化したような…」
フランシス 「なるほどと頷かされる回答ばかりのようです。陛下はいかがですか?」
アンジェリーク 「そうね、私はーフランシス、貴方かしら」
フランシス
「私ですか。この場合、嬉しいと申し上げた方がよいのでしょう。つまり、今の答は良きにつけ悪しきにつけ、心を最も占有する人物ということなのです」
クラヴィス 「フッ、彼の者とは単に付き合いが長いだけだと思うがな」
カティス
「待てよ、だとすると、アリオスは俺のことはどーでもいいってことなんだな。俺のワインを何本も平らげておきながら」
アリオス 「そーじゃないだろう。カティス以外が何かとしちめんどくさい奴らだってことだ」
アンジェリーク

「(アリオス、ちょっと正直すぎるわよ! このあたりで夕食会を終わらせないと大変なことになっちゃう。その前に目配せ…ってあれ、フランシスがすごくしちめんどくさい感じで、いえ!すご〜く情熱的に私を見てるんだけど)」
フランシス 「陛下。この後、少しかまいませんでしょうか?」
アンジェリーク 「えっ、ええと…」
フランシス 「心理テストのさらなる奥深さをお伝えできればと…」
アンジェリーク 「わかりました、お待ちしてます」
   × × ×
フランシス 「こんな夜更けに申し訳ありません」
アンジェリーク 「いいえ、来てくださってとっても嬉しいです。フランシスの熱視線、気づいていたわ」
フランシス 「そうなのです。陛下の可憐なお姿にあらがい切れる強者などおりましょうか」
アンジェリーク 「私の方こそ、貴方の紡ぎ出す言葉にあらがえなくなりそうよ」
フランシス 「罪深い方だ…お戯れの言葉ならどうか振向かないで下さい」
アンジェリーク 「フランシス、もしも貴方が透明人間になれたらまず何をするのかしら?」
フランシス
「私はもはや透明人間になることはできますまい。陛下が、私の心を身ぐるみ剥いでしまわれたのですから」
アンジェリーク 「(キャー!! 私ったら何想像たくましくしちゃってるの!!!)」
フランシス 「お困りになっている陛下は、まるでチャチャを踊るフラミンゴのようです」
アンジェリーク 「そのこころは?」
フランシス 「次のステップを踏み出せない片足フラミンゴ。心はその羽の如く真っ赤に染められているというのに」
アンジェリーク 「…簡単なステップなら、少し練習すればできるようにならない?」
フランシス
「もちろんです。お忙しい身ですから、中身の濃い練習をせねばいけませんね。
 今夜だけは『愛しきレディ』と呼ばせて下さいますか?」
(おわり)

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