ミッションBD


まあ、リュミエール、ではお願いしていた例のハーブが本当に手に入ったのですね。どうもありがとうございました。早速大急ぎで向こうに届けておきましょう。
ええ、もう間もなくですわ。あと半時間ぐらいですかしら、あの2人が会場に到着するのは。そうしたら作戦開始、ですわね。なんだか落ち着きませんわ。もうチェックもシミュレーションも何度もしたのですけれど。よろしければ少しの間、雑談につきあって下さいません? 恥ずかしいんですけれど妙に気分が高揚して、お話でもせずにはいられないのです。


今考えると女王試験の頃の私は本当に子供でしたわ。
でも恋をしている自分の方があの子よりずっと大人だと思っていたんですのよ。ふふふ。
あの子が私の様子を心配してルヴァにいろいろ相談をしていたのは知っていました。
その前から育成の勉強会をランディやゼフェルやマルセルと一緒に開いて貰っていたのでその人選はもっともだと思いましたわ。
そしてあげくに「私が女王になってロザリアを補佐官に指名するから、ロザリアは何にも心配しなくていいのよ」なんて言うんですの。
心配に決まっているじゃないですか、あの危なっかしい育成ぶり。
でも、ルヴァの助言もよかったのでしょう、あの子はどんどん育成も上手になり、見る見るうちに女王候補としても危なっかしさはなくなっていきました。

宇宙の移動のときのことを覚えていらして? あのときは本当に鳥肌が立ちましたわ。
頼りないと思っていたライバルの成長ぶりに、畏怖に近い感動を覚えた、と申せばよろしいのでしょうか。それから心のどこかで、ああ、私が女王試験を降りてしまったこともあながち間違いではなかったのだと、安堵する気持ちも多分にありました。
そんな調子でしたから、あの頃の私って、宇宙の移動のあとは、聖地で新しい生活が始まることで頭がいっぱいでしたわ。

即位してからもあの子は相変わらずで。
にぎやかな楽しいことが大好きで、これまで絶えていた守護聖の誕生祝いを復活させたり。私たちなど結婚式に新婚旅行までプレゼントされましたわ。ええ、もう生涯忘れられない思い出です。あの子には本当に心から感謝しているんですの。

でも私には少し気になることがありました。
あの子とルヴァが、即位後、少しヘンなんです。上手く言えませんけれど。
相変わらずあの子が一番頼りにしているのはルヴァの意見ですけれど、なんと言いますかしら、絶対ルヴァだけの意見を聞くと言うことが無くなりました。必ず他の守護聖や王立研究院の者を一緒に呼びます。同時にルヴァが奏上に来るときも絶対一人ではありません。もしかして二人きりになることを避けているのではと気がつくと、他にもいろいろなことが見えてきましたわ。
まるでバリアを張っているかのように、絶対にお互い手の届く範囲には近づかないんです、あの2人。ええ、にこやかに談笑はしているんですのよ。いえ、それどころか、本当によく見つめ合っているんです。無言で。
でもそれが何を表すのか私には見当がつきませんでした。

それが、新婚旅行の時に、あの人が、オスカーが教えてくれたのです。
彼は見てしまったのだといいます。
即位式の前日、真夜中の飛空都市の公園で、ルヴァの胸に顔を埋めて泣いているあの子を。そして、彼女の背を撫でるルヴァのターバンが解かれているのを。
その意味はご存知ですわね?

実は女王試験が終わる少し前、オスカーが私とのことでジュリアスから少々お言葉を受けたことがあったのですが、その時なぜかルヴァも一緒に叱られたんですって。
「可哀想に、とんだとばっちりだ。ルヴァのことだからどうせ手も握っていないぜ?」
なんて私たちは笑い話にしてしまっていましたが、今思うとあれは女王候補が2人とも失われることがないようにルヴァに釘を刺すためのものだったのです。

旅行以来私は、あの2人のために出来ることはないかと考え続けていました。オスカーも同じ気持ちですわ。私たちの幸せが、あの2人を踏み台というか犠牲にしているなんて、考えるだにおぞましいことです。なのにそれにちっとも気がつかなかったなんて、私は本当に、何と申しますか、幸せボケしていたんですのね。恥ずかしいことですわ。

それで、先だってのゼフェルの誕生祝いの昼食会のあと、私はあの子に
「ルヴァにはものすごくお世話になったから、彼のお祝いは是非私たち夫婦で取り仕切らせて下さい」と頼みましたの。一瞬驚いた後快諾してくれましたわ。
それからです、この計画が動き始めたのは。

2人の様子になんとなく思い当たる方は思った以上にたくさんいたようですわね。
それでなくても、あの2人に何かしてあげたいっていうのは皆さん思っていらしたようで、本当によくご協力いただきましたわ。
ランディとゼフェルとマルセルが、資料の山に埋もれて調べに調べた末、「守護聖と婚姻関係もしくは愛人関係にあったと思われる過去の女王のリスト」を作成して下さったのは本当にありがたいことでした。これでジュリアスも説得できましたし、あの2人も移動のシャトルの中でリストを見れば私たちの思いをきっとわかってくれるでしょう。
ジュリアスったらそれでも「何もわざわざ間違いを招くようなことを」と渋っていたのですが、クラヴィスが「2人とも一人前なのだから、何が起こってもそれは間違いではないと思うが」なんて見事に切り返して下さって。さすがですわ。
彼らには、スケジュールの調整や警護体勢の布陣とチェックでずいぶん骨折っていただいて、本当にありがたい限りです。

旅先の選定や衣装や調度や小物の準備ではあなたやオリヴィエにずいぶんお世話になりましたね。ありがとうございます。群島リゾート、素敵ですわね。あちらで3泊4日といってもこちらでは数時間ですかしら?わたしたち皆の思いを受け止めて、充分楽しんでくれるといいんですけれど。
オスカーったら、「ルヴァのことだから釣りが出来るなんて浮かれてしまって、結局2人の間はなーんもナシだったりして」なんて言いますのよ。でも私、ルヴァはやるときにはやる方だと信じていましてよ。たとえあの2人が、ふたりとも信じられないほど鈍くて奥手だったとしても、ね。

先程のハーブもきっと役に立ってくれるでしょう。
なんでも滅亡寸前だったとある星の人口回復に劇的な効果があったそうではありませんか。期待できますでしょう。まあ、リュミエール、顔が赤いですわよ、ふふふ。

ああ、もうすぐですわね。
2人が会場に着いてからシャトルに乗り込む、というか無理に乗せるのですけれど、そこまでは監視カメラもあるのですが、それから先はやっぱりあんまり気の毒だからカメラも何もナシですの。
上手く事が運ぶことを祈りましょう。
今となって私たちにできることと言えば、祈ることと、あと、そうですわね、2人の帰りをどんな風に迎えるか考えるぐらいしかありませんものね。ふふふ。


(おしまい)


ルヴァアン帝国の、2002年ルヴァ様お誕生日企画に参加した作品です。
あちらでは特に表記していませんが、読んでお解りのように「終わり、始まる夜に。」と共通の設定となっております。続編と言うと少し違う気がするのですが。
ルヴァアン帝国管理人の和緒様は「旅行に出かけた2人のお話も、ぜひ読んでみたいです。」と言って下さったのですが、そんな恐ろしいもの、書けないです。

諸願奉納所へ