黄金の3,緑の4


お誕生日に欲しいもの、ですか?

ああ、もうそんな時期になったんですねー。
私もここに来て長いくせに、どうも自分の誕生日が7月12日だってことに慣れなくって。

え?
7月12日、いや、それは間違っていません。
ですけれど、まだ自分の誕生日が来るのが待ち遠しくて仕方がなかったあの頃、私が指折り数えた日は、なんというか、「7月12日」ではなかったんです。

どういうことかって?

そうですね、聞いて下さいますか?


ご存知のように私が生まれ育ったのは主星ではありません。ですから当然主星とは違う暦を使っていたのですよ。
もっとも、神殿の行事は主星の暦で行われていましたから、生意気な子供だった私は、自分の誕生日が主星の暦で言うと7月12日にあたることを調べて喜んでいたりしたんですがね。

四季の変化の少ないところですから、かえって人々は光の変化に、空気のうつろいに敏感だったのでしょう。あの星の暦は、基本的に色で表されていました。
大抵の家にあった日めくり暦で言うと、縦の線の色と本数と、添えられた数字とその色、で。たとえば、「黒の3,青の2」というように。ええ、その日は黒の縦線が3本あるところに、青い字で2,と書かれているのですよ。

短い雨期がすぎると、それまで銀色だった日めくりの縦の線が金色に変わります。
数字の色が数度変わると、金色の線がもう一本増えます。
金の線が3本に増えると、母は裏庭の木の実で砂糖漬けをこしらえます。その実はそのままでは食べられないのですが、砂糖漬けにしたものはとてもおいしいのですよ。
そして数字が緑に変わると、母は、その砂糖漬けをたっぷり入れて、他にも木の実をいろいろ入れて、ケーキを焼いてくれるのです。私の誕生日のお祝いの席で家族みんなで食べるために。
ああ、どんなに毎日、日めくりを剥がすのが待ち遠しかったことでしょう。


居間の目立つところに掛けられた日めくりの、少しくすんだ、うすい紙の白。くすんではいましたが、子供心にはしっかり輝いて見えた、金や銀の縦の線。5日毎に変わる、数字の色。
楽しいこと、嬉しいことはどれも毎日暦を一生懸命見つめて待っていたせいでしょう、あの星でのすべての思い出の中に、いつもその色合いが隠されているのです。


黄金の3、緑の4。
それが私の誕生日でした。
だから、金と緑の組み合わせは、私の中ではちょっと特別だったんですよ。緑色が好きなのも、案外そのあたりからでしょうか。・・・単純すぎますかね。


女王試験が始まったとき。
「これはたいへんだ」という思いが先行して、あなたの第一印象は「ああ、ものすごく緊張しているな」でした。今思うときっと私も同じぐらい緊張していたのでしょう。だって、それ以外ほとんど覚えていないんですから。
それで、その日のうちにあなたがディアに飛空都市を案内してもらっているとき、森の湖でお会いしましたよね?覚えてらっしゃいますか?
木洩れ日を浴びたあなたのはにかんだ笑顔・・・緊張のため白んだ頬、ゆるく波打つ金の髪、そして深い光を湛える緑の瞳・・・その、白と金と緑のコンビネーションを見たとき、唐突に、幼い自分が誕生日を待っていたあの気持ちがよみがえって、私はとんちんかんな挨拶をしてしまいました。ええ、確か午前中に会ったばかりのディアに「お久しぶり」とか言っちゃったんでしたかね。
もしかしたらあの瞬間から、あなたが特別な存在だと感じていたのかも知れません。

そう、あの暦で育った私にとっての「嬉しいこと」を象徴する姿の、あなた。
今こうしてあなたが私の腕の中にいるのは、決して偶然ではないのだと、そう思っているのですよ。

欲しいものという質問は、だからとっても困るのです。もう手に入れてしまって、今ここにあるでしょう。

ああ、でも、久しぶりに砂糖漬けのくだものがいっぱい入ったケーキが食べてみたくなりましたね。子供みたいですかね?
え、作ってくださるんですか?それは本当に楽しみですね。あなたの作ってくださるものは、なんでも美味しいですから、余計に、ね。

お願いして、いいですか?

では、お礼の先渡し、ってことで。大丈夫、明日はお休みです。ね。


「ルヴァアン帝国」に住民登録はしたものの、なんの貢献もできなそうで心苦しかったのですが、とりあえず地様のお誕生日イベントがあるようなので思いきって参加してみたのでした。でもかえってお忙しい管理人様にご負担をかけてしまったようで、なんというか間の悪さというか雰囲気読めなさを反省する今日この頃です。

どっちにしても暦のことはものすごく気になっていたので、一度は扱ってみたかった私は、自分でも相当理屈っぽい奴だと思います。
ついでになんで3と4かというと、足して7,掛け合わせて12だからだったりするあたり、全然ネオロマンスじゃないですね、根本的に人間が。

諸願奉納所へ