『前線異状あり。』


俺は行事の中で、この日が大嫌いっだ!
 彼女持ちの俺に取って最低最悪で、いけすかねーあの野郎に頭下げまくっても人と会えない仕事を貰いたいくらいだ。
 それに、人に知れちゃー人格疑われ、信じられないとばかりに変な物を見るように、女に至っては親密度とやらがマイナスがついて下がりそうな位で・・・・済めばいい方かも。
 本日、何回目かもう数えられない(最初から数えてないけどよー)ため息を吐いた。

 「ゼフェル・・・これで僕が知る限りで、13回目だよ。そのタメイキ。」

 最後の部分を強調してマルセルは、俺の頬に指をムギューと押し込んだ。
 天使のような可愛い顔して、やる事は小悪魔なこいつは小首を傾げて俺を見ていた。

 「13回・・・って、むちゃくちゃ不吉じゃないか?だ、大丈夫なのか?」

 その根拠はドコから来ているのか、実際の真実味とやらも説明してもらいたい!!
 ・・・内心突っ込みながら、一応俺の事を心配してくれているのだけは判るので、口には出さない。
 ランディは、まだ13回ってのに拘って心配してくれている。

 「あぁ・・・。」

 何とか、返事はした。
 今の俺には、これが精一杯だ。

 「あぁ・・ってさー、ゼフェルってさー、この時期いつも憂鬱そうじゃない?特にさー、アンジェと付き合いだしてからじゃない?」

 小悪魔は「さー」だの「じゃない?」とかいながら、人の確信にその尖った尻尾を刺してくる。
 俺は無表情を通しながら話題を変えようと、口を開こうとした瞬間。

 「ふふ・・・何、汗かいてるの?」

 と、俺の鼻の頭をマルセルが突付いた。 今、俺の寿命は確実に10年は縮んだ。
 こうなったら自ら暴露しちまわないと、最悪の場合に至っては聖地中に在らぬ噂を立てられ大問題になったあげく、大広間で本当の理由とやらを公に発表しなければならなくなってしまう。
 真相はたいした事なければ無いでいいのだが、無ければないで「たったそれだけの事で・・・。」と扱いが酷い。
 これを遣られた記憶は、まだ新しい。

 俺は、天使の笑顔が変わらないうちに、自ら暴露する事を選んだ。

 
 「ふ〜ん。贅沢な悩みだよね。」
 「別にいいんじゃないのか。」

 当人じゃない他人には、俺の気持ちなんてわかんねーよ。
 
 「でもさー、アンジェもそれ知っててやってるんでしょ?だったら、それも行事の一環として受け入れてあげればー。やっぱ今日は、愛が試される日でもあるんだからさー。」

 いつから、愛が試される日になったんだよ。
 愛を告げる日じゃねーのか?
 でも、言わねー。
 いや、言えねー。
 今、言ったら確実に自分の首を絞める事になるからな。

 俺は言葉を選びながら、どれだけ甘い物が、特にチョコレートが苦手か語った。

 俺は甘い物が苦手だ。
 一口だけなら我慢すれば食べれない事もない。
 でも、チョコレートは痒くなるのだ。
 だから俺はチョコレートは食べれないと、俺の最愛の恋人アンジェリークはもちろん知っている。

 なのに、この「ヴァレンタイン・デー」とかいう菓子屋の陰謀の日は別とばかりに、チョコレート責めに遭わされる。
 それで毎回食べる食べないで喧嘩になった挙句、翌月の「ホワイト・デー」とやらにプレゼント作戦&時間の経過によって、仲直りが出来る。
 それまで会話はあっても接触は禁じられるという、男にとってはツライ一ヶ月を過ごさねばならない。
 たかだか、チョコレートひとつで。

 「アンジェは一口でも食べて欲しくって喧嘩になるんだろう?じゃーさー、ゼフェルが我慢してちょこっとだけでも食べれば済むんじゃないのか。」

 爽やかに助言してくれるランディ。

 「その一口で全身が痒くなって一晩中苦しむのは誰なのか知ってるか?・・・・・・お前じゃない!俺だ!!」
 「でも喧嘩、お前・・・嫌なんだろう。今日は我慢してさー。な?」

 俺の肩をポンポンと叩き、優しく言われる。
 うー。でもあの痒みは尋常じゃないぞー。

 「一度だけでも食べればいいんじゃないのかー。」
 「・・・・・一度は食べた。」

 そう、俺は一度は食べたのだ。
 一口だけって約束で。
 だってよーあの日は、2人にとって最初の「ヴァレンタイン・デー」だったし、その頃は今考えると恥かしいくらい・・・そう、盛り上がっていたのだ。
 だが、その一口で俺は一晩中・・・地獄を見た。
 今までに味わった事の無い強烈な痒さだった。
 地獄は見たものじゃなければ判らないって本当だなと思ったくらいだ。

 だから、それ以来チョコレートは勘弁なーって言ったのである。
 なら、チョコレートは止めて他の物にしてくれても、いいと思わないか?
 甘い物だめでも、一口なら我慢出来るんだから。
 なのに、毎回手作りのチョコレート類を作ってくる。

 今年もその一口を食べるかどうかで又・・・喧嘩かよ。

 ココまで知ったランディは、どう言ったらいいのかアイデア尽きたか黙っていた。

 「しかし・・・何でそうまでチョコレートにこだわるかなー。」
 「そうだろぉ・・・別にチョコレートじゃなくってもいいんだかろよー他のでもいいのにな。」

 俺とランディは2人同時にため息をついた。


 ばん!!


 そこには、髪を振り乱し(何故か)むちゃくちゃ怒っているマルセルがいた。

 「何言ってるんだよ。その日はチョコレートじゃなくっちゃダメなの!それも手作りで、自分の思いを・・・愛情を存分にかけて・・・相手に僕の気持ちが伝わりますようにv・・って、この日の為に前々から準備とかもしてるんだからね!! おまじないに頼りたくなるほど、切ないんだから・・・アレが効くとか色々この日の為に賭けてるんだからぁ!!
 それを・・・たかが一晩痒いくらいで何だよ!酷いよゼフェル!!
 それに、ランディも!!・・・・女の子の気持ちを踏み躙るなんて!!」

 最後は泣きながら何処かへ走って行ってしまった。

 「マルセルの奴・・・どうしたんだ?」

 呆気にとられた様子でランディは後ろ頭を掻いている。
 ランディ・・・お前そんな呑気でいいのか、今の発言ちゃんと聞いていたのかよ・・・。
 
 『自分の思い』とか『僕の気持ちが伝わりますように』とか『ハートv』とか突っ込みたい所は山ほどあるが、それよりも・・・『呪い(まじない)』(スマン。奴が言うとこう聞こえる。)だの『アレが効く』だの、そっちの方が俺には凄く引っかかった。
 手作りチョコレートって、何か仕込んである物なのか?
 チョコレート自体濃い味だから、大概のモノは味が誤魔化せるよな。
 もし、仕込むとして・・・そういう『まじない関係』には打ってつけの人物が、ココには揃ってるしな。

 ―俺は、しばらく考えてから腹を括った。

 そして、クラヴィス・ルヴァ・メルの所を周り、証拠を押さえ、この日用に取り扱われる『普通こんな物は菓子ン中には入れネーだろがー!!(怒)』って数々を俺が関ってるとは絶対に解んねーようにして、聖地ご禁制にして貰った。
 お陰で、当分ただ働きな面倒が増えたが仕方がねーよな。
 やっぱさー・・・・愛の為であり・・・・・・・・・・・・俺の為でもある。
 
 そんで、最愛の恋人にルヴァ調合の痒み止めを塗ってもらいながら、本日の「ヴァレンタイン・デー」愛を告げる日は無事終了したのだった。
 
  (・・・・ん?マルセルがチョコレートやる奴は誰なんだ?)

 
 ======END。


 チョコレート食べてて突発的に出来上がったものです。
 しょうもないのですが、ただこのマルセルが書きたかっただけかもしれません。(笑)(Teruzo-)

マルセルと花君の中央君は何となくキャラがかぶってると思っていたけれど、コレ読んでますますその感を強くしました。(ちゃん太)

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