「さつき香る水の流れ地の守り」
5月の風が、爽やかな緑の香りを運んでくる季節。
地の守護聖の執務室に作られた、ティーハウスにて3時のお茶を楽しんでいる。
今日はみな忙しいのか部屋の主と水の守護聖、金の髪の女王候補だけがテーブルを
囲んでいた。
何の話題からか、守護聖の事になった。
その時、金の髪の女王候補アンジェリークからの、ため息まじりな一言から、すべては始まっ
た。
「おふたりは、本当に仲がよろしくてうらやましいです。」
女王候補は、手元のカップを口の方へ移動させながら又ため息をついた。
それを聞いた、ルヴァはきょとんと女王候補を見つめ、リュミエールは何かえらく
慌てた様子で、カップをソーサーに戻すときカチャカチャと音をたてた。
「アンジェリーク。・・・・そんな事はないのですよ。」
リュミエールが、少しためらいがちに話し出した。
その様を見て女王候補は緑の瞳を丸くし、あまりにも突然過ぎる言葉を発してしまう。
「えっ?!おふたりはもしかして、仲が悪いのですか?。」
「ち・・・ちがいます!アンジェリーク、あのですね。それは、仲が悪いとか良いとかではなく。い、いや。悪くないのです。本当です!」
めずらしく表情をくるくると返るリュミエールは、「それはですね。」と一生懸命に説明をする。 しかし、その説明を聞くと益々ふたりの仲は怪しいモノに聞こえてくる。
とうとう堪えきれず、ルヴァがめずらしく笑いだした。
「ルヴァ様?」
「何が、そんなに可笑しいのですか?」
笑っていない二人にとっては、何がそんなに可笑しいのだと、言わんばかりの表情でルヴァの方を見る。
それが、返ってルヴァの笑いのツボに拍車を駈けた。
「し、失礼・・・失礼しました。コホン。あ〜悪気はありませんから、ゆるしてくださいね。
あのですね、リュミエールが言いたい事はですね〜。私達は最初からですね、仲良しという事では、あ〜なかったのですよ。アンジェリーク。」
「そ、そうなのです!最初から仲良しでは無いのです!!・・・・って・・・えぇ〜!!そうなのですか?ルヴァ様・・・・。」
おもわず席から立ち上がってしまったリュミエールを「まぁ〜まぁ〜。」となだめ元の席へ座らせるルヴァ。
「それでは、以前は仲がよろしくなかったのですね。」
と、真剣な眼差しでその二人を女王候補は見つめる。
その瞳に、リュミエールは何と言えば良いのかと困った様子で、ルヴァは懐かしいものでも見るような、でも答えは一緒なのであろう二人の違う様を写していた。
ちょっとした沈黙。
それを最初に破ったのはルヴァだった。
「今も昔も仲が悪かったというような事はありませんよ。あ〜ただ・・・。」
ルヴァはティーカップにくちづけた後、窓の外へ視線を移した。
「ただ・・・あの時は、お互いにどんな人なのか知らなかったのですよ。私もリュミエールもあまり自分の事をPRするのは苦手でしょ。だから、どんな葉で、どんな花が咲き実を結ぶのかわからない落葉樹のようだったのですね〜。」
リュミエールと女王候補は、窓の外には青々とした葉を揺らす桜の木があった。
「そうか・・・そうですよね。わかったような気がします。」
女王候補はなぞなぞの答えがわかったような子供のようだった。
「解って頂けましたか?」
リュミエールが少し不安げに聞いてきた。
「ええ。」
さっきとは違い何か吹っ切れた感じの笑顔だった。
「それでは、申し訳ありませんけど失礼します。」
と、言いながら女王候補は、席を立ち執務室の扉へと向かっていた。
その後姿に、ルヴァは声を駈ける。
「そうそう、アンジェリーク。先日、ロザリアも私の所へ来ましたよ〜。あなた方も私達と同じように仲良しになれると思いますよ。あ〜彼女によろしく伝えて下さいますか〜。」
「わかりました。ルヴァ様・・・今日はありがとうございました。リュミエール様、お茶とってもおいしかったです。失礼します。」
「アンジェリーク、あまり急いでころんだりなさらないでくださいね。」
リュミエールが心配して声を駈けたが、執務室の扉が閉まったところだった。
「アンジェリーク・・・行ってしまいましたね。大丈夫でしょうか・・・。」
リュミエールは心配そうにルヴァを見る。
「大丈夫でしょう。あ〜、お互い嫌いだったらここまで悩まないでしょうし。お茶がすっかり冷めちゃいましたね〜。」
ルヴァはリュミエールの方を見てにっこりする。
「あっ。すみません。気がつきませんでした。新しいお茶と煎れなおしましょうね。・・・・・
ルヴァ様は、アンジェリークが悩み事があって来られたのに、お気づきだったのですか?」
リュミエールは新しく煎れなおしたティーポットとカップを暖めながら聞いた。
「ええ。あの子は、行動が判り易いですからね〜。」
「そうですか・・・・。ルヴァ様は、いつも余裕があっていいですね。うらやましく思います。」
「そうですか?」
「そうですよ・・・。私はあなたから見たら考えすぎの心配性なのでしょう。・・・お茶をどうぞ。お茶請けはこちらを用意してみました。」
リュミエールはそう言うとルヴァの反対側の席に腰を下ろした。
「あ〜緑茶ですか〜。うんうん、いいですねー。和菓子も桜餅ですか?」
ルヴァはお茶請けに目をやる。
「本物の桜餅という物ではないのですが、この桃色が懐かしくって取り寄せて頂きました。 ・・・ルヴァ様・・・最初は私の事がお嫌いだったのですか?」
その瞳には、陰りが見える。今にも泣きそうな子供のように・・・。
「いや〜。リュミエール、あなたも自分の思った事が口に出きるようになってよかったですね〜。うんうん、よかったです。」
「えっ?そうですか? うーん。確かに以前より自分の思った事が、言えるようになったかもしれませんが・・・・。やはり、ルヴァ様に鍛えられておりますからでしょうか。」
さっきまでの子供の顔は去り、少し自信を取り戻したような笑顔になった。
「私に鍛えられてるんですか?!ジュリアスでは、なしにですか?!」
「そうですよ。ルヴァ様にです。何かとあなたは人に意見を言わせようという所がありますから。 でも、ジュリアス様程自分というものが表現できれば良いなーとは、思っているのですが・・・・・。」
「うんうん。あ〜でも、あれは、あれで、大変なようですよ〜。」
「そうでしょうか?」
「そうですよ。あなたは、あなただから素敵なんですよ。」
ルヴァは優しくリュミエールを見つめて言った。
「そ、そうでしょうか・・・・。(ポッと頬を染めた。)」
「あー今、ちょっとナルシスト入りましたねー。」
「そんな事あ、ありません!!」
リュミエールは顔を朱に染めて俯いた。
「おや?自分を表現したいのでは、なかったのですか?」
「そうですが・・・・でも・・・・。」
クスクス・・・・ルヴァから笑いが漏れてしまう。
「また、私をからかっていらっしゃるのですね・・・・。」
リュミエールの表情がさっきからコロコロと変わっていく。
「そうでは、ないのですよ。あ〜私はですね。あなたと一緒の時が一番しあわせなのですよ。」
「えっ。そうなのですか? 私などのどのような所が・・・・。」
「それはですね〜。あまりしゃべらなくて済むからです。
あ〜でも、これは誉め言葉ですからね〜。気にしないで下さいね〜。」
「えっ?えっ?!そう?そうなのですか?」
「そうですよ。」
にっこりと笑うルヴァにリュミエールも釣られて笑ってしまう。
「そうですか・・・それは、うれしく思います。お茶のおかわりをお持ちいたしましょうね。」
二人はお互いの顔を見ながら無言のまま笑顔を合わせる。
(このオヤジ・・・・どこまでが、本当なのでしょうか・・・・・・。又流されてしまったような・・・・・気がするのですが・・・・・・。)
(ふふふ・・・・。悩んでますね〜。楽しいですね〜。うんうん。)
そして、開け放たれた窓からは、春の終わりを漂わせた香りを、初夏を感じさせる風が運んでくるのだった。
<おしまい。>
なんか、妖しい二人になってしまいました。(^^;そんな事は、けっしてありませんので!! って、かえってアヤシイぞう・・・。
水様と地様って本当は仲悪いような気がするという、私の邪心から想像してしまいました。 でも、おふたかたの性格からだとこんな感じかも・・・・。イメージ壊
してごめんなさいです。
やっぱり「このオヤジ」の一言に尽きますね!!!そんな水様も、したたかな地様も、好きです。ふふふ。