「壁の絵」<水様>〜これは、ある花の記憶です。〜
何か随分久しぶりに、あなたを見る気がします。
以前ある方に頼まれて、私が画いたモノですね。
その方は、ここを使う人が寂しくないようにと、私に頼みに来たのですよ。
それも、ここを使う肝心な人が留守にしてる時にです。
いいのかと何度も訪ねた記憶があります。
あの方は、にこやかに大丈夫とか問題無いとか言って取り合ってくれないのです。
後から叱られても私は知りませんよ、と言いましたら、表情を崩されずに、喜ぶ事はあっても怒る事はないよ、っという答えでした。
それが、全然嫌な感じを与えないのです。
人によっては、それは凄くエゴイストの様に感じますが、あの方からは、それを感じず・・・・なんていいましょうか、春の陽だまりの様なのです。
でも、最後まで本人を無視した形に、私はちょっと抵抗がありましたが。
後に、その御本人さまから、感謝の言葉を頂いた時は、ほっとしたのと、やはりあの方が言っていた通りになりました。
私も喜んで頂けたのが、とても嬉しかったのです。
何故あなたにしたのか、ええ、あの方から聞きました。
この花は枯れないからなのだそうです。
それに、ここに似合う花だとも。
私が聞いたのは、それぐらいです。
だって、二人の思い出のようなモノを根掘り葉掘り聞くなんて、それこそ無粋というものではないでしょうか。
私はこれはあの方の気持ちの現れなのだなと感じました。
ですから、私の現せる限りのモノを込めて、あなたを画かせて頂きました。
だからでしょうか、今のあなたを見るとあの方を思い出します。
いつも穏やかな方でした。
でも、表に露さないのですが、激しい一面もあるのではないでしょうか。
どう激しいかは存じませんが、ただ御自分の事よりも愛する方を一番に考えて、それを行動に移すような所でしょうか。
私があなたを画く事になったように。
そう考えると、あのお二人は違うようで似た者同士だったのかもしれませんね。
あなたを眺める方は代わってしまいましたが、安心して下さいね。
あなたを画いた時の様に、美しくして差し上げます。
これからも、あなたはあなたらしく。
ここに居て下さい。
―そんなあなたが、私は好きですよ。
===========================おわり。