「闇」


  この伝説の地で、恵まれた環境の中にあっても、感じる孤独。
 人は贅沢だと思うだろう。
 もしかしたら、それは己の甘えだというかもしれない。

 はじめから緊張の連続だったし。
 やっと慣れて、気持ちにゆとりが出来たら、更に自分を追い込まなくてはいけない。
 ライバルよりも自分との戦いの日々。
 でも、自分で選んで決めるモノだから。

 それが、ある日、充足感から充実感へ
 そして、充満感へと膨らんでいき、息苦しい感じへと更に膨らんでいく。

 何が嫌なのか、何が不満なのか、自分自身にもわからない。
 ただ、息をするのも苦しい。
 自分の存在がさえも否定したい。
 足掻き、足掻き、足掻きまくった。


 いっそ、死んでしまえば、楽になるかも・・・。


 眠れぬ夜を幾夜も過ごし。
 心身ともに壊れたある日。


 私は深い眠りについた。


 それは自然な眠りではなく、人工的な薬物に頼った眠り。
 それは人工的なモノだけど、どんな物欲よりも勝り、甘美な誘惑。
 そして、これで、楽になれる―、と思ったのが私の最後の思考。

 ・・・・・・・あとは、闇に溶けるだけ。





                   ×××××
 


 
 

 ―誰かの声を聞いた。

 と、思った途端に襲う吐き気と鼻から喉にかけての異物感。
 咄嗟に、その異物を捕ろうとした手を抑えられる。
 眩しい光の中、薄く開けた先に見えるのは、目の前の管とその中を流れていく黒いもの。
 急に襲う、激しい吐き気と胃部の不快感。

 ―誰かが、誰かを呼んでいる声が聞こえる。

 何を言ってるのか理解出来ない。
 ただ、人が話すと思われる音。

 それよりも、この気持ち悪いモノをどうにかして欲しい。

 再び開いた視界の先には、緊張した顔の女王補佐官がみえた。
 人間本当に死なないと三途の川は見れないんだなぁ〜と思った瞬間でもあった。

 それからの記憶は夢の中にいるような、夢を見ているような、あやふやな感じ。
 鼻に入れられた管を抜かれ、医者のような王室研究員の詰問と説明。
 内容はあんまり覚えてない。
 飲んだ薬の量を訊かれたので、全部と答えた。
 王室研究員さんらしく、何回も細かい量まで聞かれたけど、そんなのわかんない。
 全部は全部。と言った。
 他にも何か言ってるようだけど、思った事だけをいう。
 全部は全部だ。
 何も考えずに、思ったことを、聞かれたら口から音を出すだけ。
 身体の中の嫌なものと一緒に。


 「こんな時まで微笑まないで下さい。」


 王室研究員さんらしくない、優しい言い方。
 ・・・・・何かあったのだろうか。

 視線を彼からずらし、開け放たれた出入り口らしい所をみたとき、隅に人が見えた。
 何を考えてるのか、今の私にはワカラナイ。
 その表情からも、何もヨメナイ。
 ただ、そこにいるのは私のスキナヒト。

 いつから居たのか直ぐに補佐官が頬を拭ってくれた。
 暖かいような冷たいような濡れた感触に涙だと気がついた。
 気がついたモノは止め処なく流れていく。

 上から下へ。
 高い所から低い場所へ。

 何か、聞かれる。
 私は答えられない。

 自分でも判らないことだから。
 ただ、何も考えずに深い眠りにつきたかったから。
 それだけ、なんだと。

 ―誰かが泣いている。
 
 ああ、補佐官を泣かすようじゃ・・・女王候補失格だな。

 失格で、ダメなモノなら、いらない者なら、目覚める前に戻りたい。 
 何も無い。何も感じない黒いだけの世界。
 今まで一番安心できた場所へ。

 暖かさも寒さも 何も感じない安らかな場所。
 
 ああ、あれが「闇」―。
 それに気がついたのは、もうそこへは行けないとわかったと同時だった。
 


                 ===The End=== 


【Teruzo-のひとこと】
 色んな女王候補がいただろうなーと思ったときに浮かんだのが、これ。
 突然強制的に行かされたら、いくら女王候補でもきついんじゃないかと。
 最初は楽しくっても、精神的にきつそうだなーとか。
 出来てあたり前、してあたり前の世界の中で、本人も回りも気がつかないうちにプレッシャーに押しつぶされるんじゃないかと。
 で、恋しまくり、男タブラカシまくり、くらいやってないと、本能がやばい!!と訴えた女王候補がアンジェリーもしくは歴代の女王陛下なのでは・・・・。(笑)

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